本研究は回転量子状態選別器を利用した分子配向制御技術と極短パルスレーザーの光電場による波束生成を組み合わせて、異核二原子分子の回転を制御・可視化することを目的としている。光を用いた分子の整列、回転波束の生成は過去にすでに行われている。しかし光電場のように振動する電場との相互作用を用いるために、ある向きを向いた分子とその逆を向いた分子は常に同数存在する。これは窒素のような同核二原子分子の回転を考える上では問題にならないが、一酸化窒素のような異核二原子分子の場合は話が異なってくる。後者のような分子の回転を考えると、窒素原子側と酸素原子側が180度回転ごとに相互に配向を入れ替えるような運動をすると考えられる。これを直接観測するためには分子が配向した状態で回転波束を生成しなければならない。現在までに一酸化窒素の多光子イオン化スペクトルの測定が終了しており、回転状態ごとの観測ができることを確かめた。これにより分子の回転温度が10ケルビン程度まで冷却されていることがわかり状態選別や波束生成に適した状況が実現していることを確認した。また、シミュレーションを行うことによって効果的な状態選別のためにはチャンバーの延伸が必要であることが判明し、そのための機材を準備した。さらに、以前は使用している真空チャンバーと波束生成に使用するレーザーシステムの位置関係が悪く実験が難しかったが、実験室の再配置によって問題を解決した。レーザーシステムの再立ち上げも順調であり、真空チャンバーの延伸と画像観測システムの立ち上げが終わり次第、実際の回転運動可視化の実験を開始する。
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