研究課題/領域番号 |
21K20530
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
納戸 直木 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 助教 (20909949)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 水素化 / 光触媒 / カルボニル化合物 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、新規有機材料の開発への利用を志向した光駆動型水素化触媒システムの開発であり、開発初年度は可視光照射によりマイルドな条件下で水素化反応を促進する触媒システムの開発を目指して研究に取り組んだ。 開発当初は別々の光増感剤と水素化触媒を利用する予定であったが、様々な条件検討を行った結果、当研究室が以前水素化触媒として開発していた四座配位子を有するカチオン性イリジウム錯体が、光増感剤を用いることなく、可視光照射下でカルボニル化合物の水素化反応を進行する能力を有していることを新たに発見した。 このような水素ガスを用いた光駆動型の水素化触媒システムに関しては、これまでにもChirikらによる報告例が存在するが(Nat. Chem. 2021, 13, 969)、これらは現状非常に限られている。そのため、今回の発見自体が学術的に高い価値を有しており、また今後の発展性も高いと考えられる。一方で、今回用いた錯体触媒の場合には基質適用範囲が比較的限定的であるため、今後は配位子等のチューニングを行うことで、さらなる触媒性能の向上を図り、適用範囲の拡大を狙う。特に最近、当研究室ではカチオン性のイリジウム錯体(水素化触媒)の配位子をチューニングして中性錯体とすることで、従来のカチオン性触媒では困難であったカルボン酸の直接還元が可能となることを併せて発見している。そのため、可視光を用いたシステムでも同様のコンセプトにより触媒性能を向上することは可能であると考えている。 最終的には、新規有機材料の開発等への応用も可能な、芳香族化合物等の水素化に応用可能な触媒システムの開発にも挑戦する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題における最大の不確定要素(最も難しいと思われた点)は、「光照射によって起こる現象と水素化反応における触媒活性の間に関係性があるのか」ということである。 開発初年度の取り組みでは、四座配位子を有するイリジウム錯体が可視光照射により活性化され、マイルドな条件下で水素化反応を促進する事ができるということを発見しており、つまり上記の、本研究課題の達成において最も重要なポイントをクリアする事ができている。 また、芳香族化合物の水素化反応を実現できていないという点では当初の予定を達成する事ができていないが、その一方で、光増感剤と水素化触媒を別々に使用することなく、1つの金属触媒が多機能性を発揮し、光照射によって水素化反応を促進する事ができるという当初予期していなかった新しい現象を発見することもできている。1つの触媒を用いる触媒システムの方が2つの触媒が必要となる触媒システムよりも望ましいということは自明であり、これらの発見の学術的価値や将来性を考慮すると、(2)のおおむね順調に進展しているという評価が妥当であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに見出した光水素化システムを芳香族化合物の還元に応用し、さらにフラーレンやカーボンナノチューブなどの化合物の水素化にも適用する予定である。 一方、現状発見した触媒システムでは基質適用範囲が比較的限定的であるため、目標とする芳香族化合物の還元を達成するためには、更なる触媒性能の向上が必要であると考えている。そこで今後は、配位子等のチューニングを行うことで、さらなる触媒性能の向上を図り、適用範囲を拡大して目標の達成を狙う予定である。 本研究課題と並行して、最近当研究室では、配位子をチューニングした中性イリジウム錯体を新たに開発することに成功している。さらにその触媒特性を検討した結果、開発した中性錯体は、従来のカチオン性錯体では不可能であったカルボン酸の直接還元が可能であるということを発見しており、すなわち水素化能力を配位子のチューニングにより自在に調整できることを見出している。 光反応システムでも同様のコンセプトが有効である可能性は高いと考えているため、特に配位子のチューニングに着目して研究を進める予定である。
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