研究実績の概要 |
最終年度には、前年度に見出したカチオン性イリジウム錯体と光を用いたカルボニル化合物の水素化反応に加えて、「低水素圧下でのカルボン酸の還元反応の開発」、「有機光増感剤の反応性予測を行う機械学習法の開発」という2つのテーマに取り組んだ。 前者では、以前当研究室で開発したカチオン性イリジウム錯体と類似の構造を有する中性イリジウム錯体を新たに開発し、カルボン酸類の水素化反応における触媒活性を調査した。その結果、従来の均一系触媒システムでは4 MPaから8 MPaの水素圧が必要であったカルボン酸類の水素化反応において、開発した新規触媒は0.5 MPaから1 MPaというより実用性の高い反応条件下で反応を進行させられることが分かった。また、共同研究により想定される反応機構の妥当性を計算化学的にも証明することに成功した。以上の内容に関しては現在論文執筆中である。 後者では、特別な配位子を持たない無機ニッケル塩を用いた光触媒的CO結合形成反応(フェノール合成反応)を見出し、本触媒システムにおける有機光増感剤の触媒活性予測を行う機械学習法の開発にも取り組んだ。以上の内容に関する論文は査読付きの国際学術誌への投稿が完了しており(Angew. Chem. Int. Ed. 2023, 62, e202219107.)、現在では「開発した機械学習モデルを活用した新規高活性有機光触媒の開発」という次なる目標の達成に向けてその準備に取りかかっている。 上記の2つの研究結果は、当初の目的とは異なる方向性のものであるが、これを達成する上でも重要な触媒設計的知見の取得や手法の開発につながるものであると考えている。
|