研究課題/領域番号 |
21K20531
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
渡邉 大展 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (30912357)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 高分子合成 / 新規モノマー / ラジカル共重合 / ヘテロ原子 / チオカルボニル / 分解性ポリマー / エノール / ビニルアルコール |
研究実績の概要 |
本研究では、カルボニル化合物の多彩な反応を利用することで、学術的・工業的に広く用いられる汎用性の高い高分子合成法であるラジカル重合において、主鎖と側鎖への多様な官能基を導入する新しい手法の創出を目的とする。本年度はとくに以下の2点について検討を行った。 (1)チオカルボニル化合物の重合による主鎖に硫黄原子を含むポリマーの合成:カルボニル化合物から誘導可能な種々のチオアミド類縁体を設計し、ラジカル重合のモノマーとして用いた。その結果、スチレン、アクリル酸エステル、酢酸ビニルなどの汎用ビニルモノマーとの共重合が進行し、主鎖に硫黄原子を持つポリマーが得られた。得られた共重合体は単独重合体と異なる熱物性を示した。さらに、ポリマーは適切な条件で低分子量まで分解可能であり、分解性を有することがわかった。従来チオカルボニル化合物は、そのC=S結合へのラジカル付加と続くβ開裂に基づき、可逆的付加―開裂連鎖移動重合(RAFT重合)や開環重合に用いられてきたが、本研究ではモノマー構造を設計することで、チオカルボニル化合物をビニル化合物のように重合可能と示された。 (2)エノールの直接ラジカル重合による側鎖にヒドロキシ基をもつポリマーの合成:カルボニル化合物のケト-エノール平衡は通常ケト型に大きく偏っているが、一部のカルボニル化合物においては通常よりエノール体の割合が多いことが知られている。このようなエノールをモノマーとみなし、汎用ビニルモノマーのラジカル共重合を検討したところ、NMRなどから共重合が進行したことが示された。本研究により、エノール類の重合に基づき、側鎖としてヒドロキシ基を有するポリビニルアルコール型のポリマーを直接合成である可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度検討した上記(1)(2)の研究はいずれも順調に進行した。さらに、上記の他にも意義深い結果が得られてきている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き、ラジカル重合で主鎖と側鎖に多様な官能基を導入するための新しい手法について研究する。まずチオカルボニルモノマーについて、より詳細な重合反応性を調べることで、ラジカル重合におけるビニル化合物との性質の違いについて検討する。また、主鎖の硫黄原子がポリマーの物性に与える影響について調べるとともに、ポリマーの分解性についてもさらなる検討を行う。次にエノールモノマーについて、モノマー置換基のさらなる拡張を行い、スチレンやアクリル酸エステル等の多様なビニルモノマーとの共重合を検討する。得られるポリマーはエノールモノマーに由来した特異的な構造をもつため、その構造と性質の関係を調べる。上記に加えて、種々のカルボニル化合物、およびカルボニルから誘導される化合物を用いたラジカル重合についても検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗に伴い、当初予定していた実験機器や試薬の購入時期や内容に変更があったため。また、新型コロナウィルス(COVID-19)の影響により、学会が中止やオンライン開催になり、当初の予定より旅費を使用しなかったため。次年度は、実験に必要な機器、ガラス器具、試薬等により多くの経費が見込まれることから、これに利用する。また学会に参加するための旅費および論文投稿に際し必要な経費として使用する。
|