すべての状態で同じ発光色を示す剛直な発光分子に対して、柔軟な発光分子は容易に構造変化を引き起こし、分子の集合状態に応じて発光色が切り替わる、環境応答性の発光を示す。一方、この柔軟な発光分子の歴史は浅く、その柔軟性に基づく機能性は単一の分子系で発現するものが大半であった。したがって、二種類以上の分子を組み合わせる、多成分系における柔軟な発光分子の機能性は未踏領域と言うことができる。本研究は、ホスト-ゲスト相互作用により分子を複合化し、柔軟な発光分子の多成分系分子として発現する新奇な機能性の解明を目指すものである。本年度は、前年度において環状分子の反応収率の低さが問題であったため、溶媒、濃度、温度といった反応条件の再検討に取り組んだ。その結果、反応収率の向上は見られなかったが、環サイズの異なる環状分子の単離に成功し、それぞれの単結晶構造解析に成功した。結晶構造で観測された環構造は環サイズにより大きく異なることを見出した。また、当初期待していた通り、環状分子をヘテロ元素により架橋することにより、吸収スペクトル及び発光スペクトルが長波長側にシフトすることが明らかになった。一方で、当初期待していたゲストの種類によって発光挙動が切り替わる現象は観測されなかったが、発光特性における環サイズの依存性を確認することができた。本研究で得られた知見は、構造有機化学や光化学分野における重要な知見となると期待している。
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