研究実績の概要 |
π共役系分子は有機エレクトロニクスの活性層材料として重要であり、その中でも共役系高分子は主鎖方向においてπ共役系が拡張され軌道の相互作用が大きいことから、高移動度の有機半導体として期待される。しかし一般に共役系高分子はモノマーの芳香族性による結合交替によって有効共役長が減少する。また、構造の揺らぎによって軌道エネルギーにディスオーダーが生じ、分子内主鎖方向の移動度を低下させる要因となる。この課題に対して本研究では、結合交替が小さくなるように設計しπ電子を非局在化させたモノマーユニットを、一定間隔でπ電子が局在化したユニットで連結させた「結合交替最適化ポリマー」の開発を目指す。 キノイド性の分子はキノイド構造と芳香族構造での共鳴によって電子を非局在化させることができる。そこでπ電子を非局在化させるユニットとしてチエノキノイド構造を用いることとした。連結部にはキノイド骨格を直接つなぐことができるs-indacene-1,3,5,7(2H,6H)-tetroneを用いることとした。量子化学計算によってチエノキノイド構造の鎖長の長さを最適化するために①結合交替②ジラジカル性③イソデスミック反応のエネルギー変化の計算を行った。チエノキノイド2~5量体骨格をDFT計算での最適化構造に対して結合長解析を行ったところ、鎖長が伸びるほど結合交替が小さくなるという結果が得られた。②ジラジカル性については4,5量体においてジラジカル性(y)が0.5付近となり、キノイドと芳香族の中間にあることが計算された。③イソデスミック反応について各チエノキノイドの芳香族状態とキノイド状態についてエンタルピー変化を計算したところ、鎖長に対して規格化した値で4量体においてエネルギーの極大値となることが示された。このことは4量体で共鳴構造におけるキノイドと芳香族の寄与が同程度になっているためだと考えられる。
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