研究実績の概要 |
有機半導体は原子への束縛が比較的緩いπ電子をキャリアとするが、それでも無機半導体と比較すると電子の原子核への局在性は高く、電荷移動度の向上の妨げとなっている。本研究では、π共役電子を良く非局在化した分子創成を行うために、1,3-インダンジオンを分子末端とするキノイドオリゴチオフェンにおけるキノイド構造と芳香族構造の共鳴およびジラジカル性に着目して分子開発を行った。 1,3-インダンジオンを分子末端とするキノイドオリゴチオフェンにおいて分子鎖長に対するジラジカル性(y)の評価を量子化学計算によって行った。その結果、4量体においてyの値は0.5付近となり、キノイド構造と芳香族構造の中間状態となり電子が良く非局在化されていることが予測された。そこで目的分子として、アルキル鎖がπ平面に対して鉛直方向に伸ばすことができるシクロペンタン環構造を有するキノイドオリゴチオフェンと定め、対応するオリゴチオフェンジブロマイドと1,3-インダンジオンとのカップリング反応を試みたところ、反応終了後、空気酸化によって目的分子を得ることができた。合成した分子は高い溶解性を有しており、溶液状態での物性測定を行うことができた。紫外可視近赤外吸収スペクトル測定を行ったところ、極大吸収波長が900 nmを超える近赤外光吸収を有することが示され、π電子の高い非局在性が明らかにされた。これらの分子については近赤外光に対するフォトトランジスタ等の光センサへの応用を行う予定である。一方で、シクロペンタン環架橋部のC原子をSi原子に変えたシロール骨格によるキノイド分子の合成も試みたところ、同様に目的分子を得ることができた。量子化学計算からはシロール環を含ませることで、電子受容能が向上することが予測され、n型半導体として機能することが期待できる。
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