研究実績の概要 |
本研究の目的は、自己発光を示すA2BX6型ハロゲン化物シンチレータ(A:アルカリ金属元素、B:4価金属元素、X:ハロゲン元素)の発光メカニズムを実験的に明らかにすることである。A2BX6の中には、2015年に米国で報告された青色発光Cs2HfCl6や、代表者が単結晶育成に成功した赤色発光Cs2HfI6・Rb2HfI6などがあり、いずれも40,000光子/MeVを超える高い発光量と良好なエネルギー分解能を有するシンチレータとして注目を集めている。しかしその発光メカニズムは、いくつかのモデルがシミュレーションによって提案されているものの未決定である。理論に基づいて効率よく性能改善を行うためには、発光メカニズムの解明が必要である。そこで本研究では、いくつかのA2BX6型ハロゲン化物を実際に合成し、構成元素と発光の有無を調査することで、発光メカニズムの実験的な決定を目指す。 2021年度は、まず着任研究室におけるハロゲン化物合成環境の立ち上げから取り組んだ。真空型小型グローブボックスをはじめとする真空部品・ポンプ等の必要物品を購入し、セットアップを行った。 2022年度では、A2BX6型ハロゲン化物のBにIrを選択し、Cs2IrCl6の合成と光学特性の評価を行った。単相の合成には至らなかったが、Cs2IrCl6-CsClコンポジットを得ることができた。当該コンポジットのフォトルミネッセンス特性を調査したところ、Cs2IrCl6が発光しないことが分かった。Irは最外核d軌道に電子をもつため、Irを中心金属に持つ配位多面体では電荷移動遷移は起こらないことから、A2BX6型ハロゲン化物のBにIrを導入した化合物では電荷移動線発光は見られないと予想される。実験結果と予想が一致したことから、A2BX6型ハロゲン化物の発光は電荷移動遷移が関与している可能性を見出した。
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