研究課題/領域番号 |
21K20554
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
近岡 優 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00908626)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 電解液 / 溶液構造 / 電池 / リチウムイオン電池 |
研究実績の概要 |
低炭素社会に向けた電気自動車への需要増大に対し、蓄電デバイス(Li+電池等)の更なる高エネルギー密度化が求められる。本研究では、2種のカチオンを混合した異種イオン混合型電解液に着目し、反応・異種イオンの輸送能を最適化した設計指針の開拓を目的とした。特に低誘電率(低い相互作用)を有する溶媒を主骨格とした設計により、従来の課題であったLi+輸送能低下を改善しつつ電極内イオン拡散性を向上させる新規異種イオン混合型電解液を目指した。 2021年度は低誘電率溶媒としてジメチルカーボネート(DMC)がスピロ型4級アンモニウム塩(SBPBF4等)を特異的に溶解可能であることに着目した。実際にLi塩とSBPBF4、DMC溶媒を組み合わせた電解液を調製した結果、従来のプロピレンカーボネート(PC)溶媒系と比較して、1.5-2倍程度の高いイオン伝導度を実現できることを見出した。さらに、Li+伝導度を磁場勾配NMRによって解析した結果、従来の異種イオン混合型電解液(PC系)よりも2倍程度高いLi+伝導度を示すことが明らかとなった。これは、当初の目的であった高イオン伝導度と高Li+伝導を両立した電解液設計が実現できることを示唆する結果である。実際にLi4Ti5O12//活性炭を用いて充放電試験を実施した結果、200 mA cm-2の電流値で容量維持率50%超という高速な充放電特性を達成した。さらに、SBPBF4を混合した電解液系ではLi4Ti5O12を用いた電池系のガス発生抑制(20-50%減)も確認し、長寿命特性が得られる可能性が示唆された。従来研究において「異種イオンの混合」は電極/電解液界面のLi+輸送を阻害するため、出力・サイクル特性を低下させると考えられてきた。その一方、本研究により適切な溶媒種・異種イオンを選定することで性能向上が大幅に見込める可能性が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Li+伝導と系全体のイオン伝導を両立した電解液設計と基礎特性評価、実セルを用いた充放電(出力・サイクル)試験は既に実施しており、従来系を超える出力特性が見込めることを既に見出している。また、磁場勾配NMRを用いた各イオン種・溶媒の自己拡散係数も既に測定済みであり、溶液の物理化学パラメータと電気化学特性の関連性も明らかになりつつある。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に得られた低誘電率溶媒を主骨格とした電解液設計に対し、2022年度は精密な溶液構造解析を実施する。特に、分光学的測定(Raman)と量子化学計算を組み合わせた溶媒和構造の解析により、異種イオンを混合した際の溶解・イオン輸送挙動と充放電特性(出力・サイクル特性)の関連性を明らかにする。さらに種々の電極材料への新規電解液の適用性検証として、これまで適用した電極材料(Li4Ti5O12, 活性炭)だけでなく、汎用的な電池材料(Graphite LiFePO4等)にも適用し、反応電位や固体内Li+拡散性が充放電特性に及ぼす影響を定量的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、物品調達において端数金額が発生したためである。使用計画としては、消耗品類の購入代金に組み込む予定である。
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