研究課題
本研究は多孔性カーボンの全固体電池電極としての応用を目的とし,初回充放電時の不可逆容量を抑制した多孔性カーボン材料の創製を目指している。今年度は不可逆容量の内訳を探るべく,in-situ, ex-situでの電子顕微鏡分析,充放電特性に与えるセル内の雰囲気,カーボン構造の影響に着目して評価を行った。シリカコロイド粒子を鋳型にして作製した多孔性カーボンを作用極に,硫化物系全固体ハーフセルにおける充放電特性を評価した。充放電後の電極を分析したところ,カーボン部に酸素やリチウムの存在が確認された。反応の前後で炭素部の酸素の割合が増加していることから,反応の過程や試料の回収時に試料が酸化したものと考えられる。透過型電子顕微鏡内での充放電過程のin-situ STEM-EELS分析の結果,Li化した炭素表面にはLi酸化物が析出し,TEM鏡筒内の10-5 Paオーダーの真空度においてもLi酸化物の析出は避けられないことが分かった。セル内に存在する酸素や窒素がカーボン表面でLiイオンと反応し,過剰な放電容量を発現する原因となったと考えられる。以上のことから,高比表面積を有する多孔性カーボンはセル内の雰囲気にシビアであり,雰囲気の制御が不可逆容量抑制に重要な因子の一つであることを明らかとした。カーボン表面に存在する酸素含有官能基等の影響を調べるべく,多孔性カーボンを水素気流下で熱処理し,炭素表面を水素終端処理した多孔性カーボンを作製した。上と同様に硫化物系の全固体ハーフセルにて特性を評価した。官能基の水素終端前後で,初回の放電容量は減少し,不可逆容量の抑制に効果があることを明らかとした。雰囲気と同様にカーボン中に存在する酸素成分がLiイオンと反応することで,過剰な放電容量を発現したと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していた不可逆容量に影響を与える因子を特定し,セルの雰囲気や炭素構造の制御により,過剰な放電容量を低減することに成功している。
今年度新たに開発した高気密セルにおいて,多孔性カーボンの黒鉛化度,表面官能基,炭素源の精査等の様々な構造因子と充放電特性の関係を評価する。また,電子顕微鏡観察による炭素電極の微細構造観察等を並行して行い,不可逆容量を抑制した全固体電池向け多孔性カーボン電極材料を作製する。構造最適化した多孔性カーボンと充放電活物質であるSnO2やSnとの複合体での特性評価を実施する。
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