今年度は新たに作製した高気密セルを用いて,前年度明らかにした含酸素官能基の影響をより詳細に調べた。多孔カーボンを水素気流下で熱処理し,カーボン表面の官能基を水素で終端した。カーボン単体による不可逆容量を評価するために作用極に多孔カーボンのみを用いた全固体電池を用いた。水素終端による不可逆容量抑制効果は約30 mAh/gであった。一方,電極に活物質と固体電解質の混合物を用いた実用に近い系では,約400 mAh/g不可逆容量が抑制された。以上の結果より,炭素表面の酸素含有官能基はカーボン自体の不可逆容量抑制よりも,固体電解質の還元分解抑制に有効であることが分かった。このような炭素構造の制御のみでは不可逆容量を完全に抑制することは困難であることもわかった。そこで,別のアプローチとしてLiのプレドープ法による不可逆容量抑制を検討した。多孔性カーボンとLi金属を乾燥Ar中で機械混合し,カーボンへの固相Liプレドープを行った。Liプレドープにおいても,炭素表面官能基の水素終端処理は有効であり,水素終端処理をしない多孔カーボンではLi金属との混合時に火花が発生するなど,激しく反応し,同時にカーボン表面に酸化物が生成した。水素終端カーボンでは,火花が発生することなく,Liドープが可能であった。TEM,SEM観察より,Liドープ後においても多孔カーボンの多孔構造は維持されており,EELS測定より,カーボン骨格へのLiドープが進行していることを確認した。硫化物系固体電解質を使用した全固体電池において,Liプレドープ多孔カーボンは初回の不可逆容量が大幅に減少し,その後のサイクルにおいても充放電が可能であった。 以上の検討から,多孔カーボンの構造制御により,初回不可逆容量の抑制に成功し,Liプレドープにより不可逆容量をさらに減少させることに成功した。
|