ネオジム磁石には、ネオジム(Nd)以外に含まれる貴重なジスプロシウム(Dy)が含まれている。Dyを化学分離において効率的に回収するために、Dyと同様のカラム分離挙動を示すユーロピウム(Eu)が発光する性質に着目し、分離境界がリアルタイムで見える「可視化カートリッジ」を開発して簡便・確実にNdを除去することで微量Dy測定の実現を目指した。 2022年度は、引き続き可視化カートリッジの開発に取り組んだ。蛍光配位子として選択したATBTA-Eu+3と樹脂の結合には成功したように見えたが、配位子からEuを外した後では再度Eu溶液を接触させても蛍光が戻らず、Euの通過を知らせる可視化カートリッジとしては機能しなかった。この課題を解決するには様々な条件検討が必要なため、現時点では可視化カートリッジの作成は難しいと判断した。 そこで、トリプル四重極誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS/MS)と、化学分離法の組み合わせによる、分離境界の見極めが不要な化学分離法を用いて簡便なDyの含有量測定法の開発を目指した。2022年度は、高濃度ネオジム溶液を試料とし、LN2 Resin(Eichrom Technologies社製)を用いた化学分離によってNd等の軽希土類元素を除去し、Dy等の重希土類元素を回収してICP-MS/MSによる測定を行った。 化学分離ではNdの除去率は99 %以上かつDy、イットリウム、テルビウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムが定量的に回収できたことを確認した。さらに、酸素ガスを用いたICP-MS/MSの併用により、試料に残存したNdに由来する酸化物干渉の影響を低減した測定が可能になった。これにより、ネオジム磁石のようなNdを大量に含む試料に対して、簡便な操作でより正確にDyの含有量を把握することが期待できる。
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