研究実績の概要 |
マイコウイルスが宿主に与える影響を多数の菌株を用いて観察し、その共通点や相違点を俯瞰することを目的とした。マイコウイルスは宿主に表面的な変化を与える例が少ないため研究例が限られており、複数の菌種や複数のウイルス種に共通した関係性は見出せていない現状である。菌株/ウイルスの組み合わせと宿主糸状菌の表現型の規則性を理解できれば、マイコウイルスを活用した糸状菌の機能強化や弱点克服への発展が期待できる。 昨年度までに、ウイルス種ごとの特徴をつかむことを目的として多様なウイルスをもつ菌株同士の表現型比較を行ってきた。その中で、糸状菌株ごとのゲノム配列の違いが表現型に大きく反映されており、ウイルスごとの共通性を見出すのは困難であることがわかった。この課題を解決するために、本年度は同一の菌株に対するウイルスの影響を観察した。2つの菌株Ha, Hbは同一種のウイルスVa, Vbにそれぞれ感染している。VaとVbは全体で10kほどあるゲノムのうち3塩基しか相違がない、非常に似たウイルスである。ウイルスフリー化したHa株およびHb株に対してVaあるいはVbを導入した、ウイルス再導入株を作出した。HaVa株、HaVb株、HbVa株、HbVb株の4種のウイルス再導入株と、親株であるウイルスフリーのHa株およびHb株について表現型解析および遺伝子発現解析を行った。宿主表現型はいずれの株でもウイルス感染による影響が観察されなかった一方で、数百単位の遺伝子の発現が変動していた。しかし、同一の宿主菌株であってもウイルス株によって引き起こされる遺伝子発現変動は多くが異なっていること、また同一のウイルス株であっても宿主菌株に対して引き起こす遺伝子発現変動はほとんど一致しないことが明らかになった。これはウイルスが宿主に与える影響は非常に高い宿主特異性のもとに成り立っていることを示唆している。
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