研究課題/領域番号 |
21K20569
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川出 野絵 名古屋大学, 環境医学研究所, 特任助教 (20910574)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | アルツハイマー病 / グリア細胞 / 肥満 / 脂質代謝 / 脳・全身連関 |
研究実績の概要 |
肥満時には認知症発症リスクが高く、また、肥満のヒトでは脳の白質容量が減少していることが報告されている。白質はミエリンが多くを占め、その組成の大半は脂質である。したがって、認知症の発症やその病態悪化には脳の脂質代謝系の変動が関与しているのではないかと仮説を立てた。本研究では認知症の代表的な疾患であるアルツハイマー病(AD)のモデルマウス(App NL-G-F)を用いて、本仮説を検証する。 今年度は、AD発症期である8ヶ月齢のADマウスを用いて、通常食摂取時の遺伝子発現解析を行なった。当研究室で取得済みのAD患者の死後脳を用いた次世代シークエンスデータを再解析したところ、AD患者において脂肪酸合成や脂質取り込み、リン脂質合成に関与する遺伝子の発現レベルが変動していた。これらの脂質代謝系の遺伝子について、ADマウスの大脳皮質での発現レベルを測定したところ、ヒトと同様に発現変動した脂質代謝系遺伝子を見出した。また、ADマウスの大脳皮質ではミエリンを産生するオリゴデンドロサイトのマーカー遺伝子の発現が低下しており、オリゴデンドロサイトの機能に異常が生じていることが示唆された。 さらに、ADマウスでは肝臓や白色脂肪組織でも脂質代謝関連遺伝子の発現が変動していた。また、血清を用いた網羅的なサイトカイン・ケモカイン濃度の解析により、ADマウスでは血中の炎症関連因子プロファイルが変動することも明らかとなった。これらの結果から、ADマウスでは末梢の代謝組織での脂質代謝系や、炎症系の変動が起こっていることが示唆された。 次年度では、高脂肪食を摂取させて慢性的に過栄養状態としたADマウスを用いて解析を行い、AD発症時に末梢組織での変化が脳へ影響する機構について、脂質代謝系に着目して明らかにする予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ADマウスへの高脂肪食摂取期間は6ヶ月間と設定したが、マウスの確保や飼育条件の検討に時間を要したため投与開始時期が遅れ、サンプル取得は次年度となった。今年度は通常食摂取のADマウスを用いて脳、肝臓、脂肪組織のデータを収集し、今後の方向性を見出すことができた。これらの取得データを基に、次年度は高脂肪食摂取ADマウスの解析を進めていく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
高脂肪食投与されたADマウスでの脳の脂質代謝系の変化について、ミエリン産生を担うオリゴデンドロサイトとの関連性を交えて遺伝子発現解析を行う。アミロイドβ蓄積やミクログリア、アストロサイトの活性化といった脳のAD病態についても、免疫組織化学的な手法によって、高脂肪食摂取による影響を解析する。 また、高脂肪食投与されたADマウスでの末梢代謝組織での脂質代謝系や炎症系の変動について解析し、脳の病態変化との関連性を見出す手がかりを得る。肥満時には白色脂肪組織からアディポカインや遊離脂肪酸が産生され、脳や肝臓に作用することが知られている。これらの既知の現象のAD病態への影響に着目する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
マウスへの高脂肪食投与実験の進行に遅れが出たため、今年度では試薬購入機会が少なかった。また、コロナウイルス感染拡大の影響で学会参加に際して出張費が必要なかった。
|