研究課題
肥満時には認知症発症リスクが高く、また、肥満のヒトでは脳の白質容量が減少していることが報告されている。白質はミエリンが多くを占め、その組成の大半は脂質である。したがって、認知症の発症やその病態悪化には脳の脂質代謝系の変動が関与しているのではないかと仮説を立てた。本研究では認知症の代表的な疾患であるアルツハイマー病(AD)のモデルマウス(AppNL-G-F)を用いて、本仮説を検証する。脳にはリン脂質、糖脂質、コレステロールが多いことから、これらの代謝系を中心に解析を行った。昨年度までの解析より、高脂肪食(HFD)を摂取させて慢性的に過栄養状態としたADマウスの大脳皮質では、これらの脂質代謝系遺伝子の発現が変動していたが、その変動の多くは通常食(NCD)摂取時にも見られた。今年度では、ミエリンを産生するオリゴデンドロサイトを脳より単離し、遺伝子発現解析を実施した。HFD摂取ADマウスのオリゴデンドロサイトではリン脂質や糖脂質、コレステロールの代謝系遺伝子の発現が変動していたが、これらの変動の多くはNCD摂取時にも見られた。一方で、脳のリピドーム解析を行ったところ、 NCD摂取時はADにより濃度が減少する脂質が多く、HFD摂取時には増加する脂質が多かった。また、ADにより濃度変動した脂質はリン脂質、糖脂質が多くを占め、ステロール系脂質は少なかった。これらの結果から、ADの脳では主にリン脂質・糖脂質の代謝が変化しており、HFD摂取はこの変動に影響すると考えられた。これらの詳細な機構は各代謝系の遺伝子発現調節の他に、タンパク質や酵素活性レベルでの変化が関与していると推察される。また、NCD摂取ADマウスの血漿リピドーム解析より、血中脂質プロファイルが変動することがわかった。末梢組織での代謝変化が脳の脂質プロファイルと関連する可能性が考えられる。
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