研究課題/領域番号 |
21K20574
|
研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
木村 将大 岩手医科大学, 医学部, 任期付助教 (80910215)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | キチン / chitotriosidase / 自然免疫 / キチンオリゴマー / ほ乳類キチナーゼ |
研究実績の概要 |
キチンは N-アセチル-D-グルコサミンが重合した多糖類であり,アスペルギウスやカンジダなどの病原性真菌の細胞壁の主要な構成成分である。ほ乳類はキチンを加水分解する酵素として chitotriosidase (Chit1) と acidic mammalian chitinase (AMCase) を発現している。キチンを化学処理して得られたキチンオリゴマーは自然免疫を増強する機能をもつことが報告されており,本研究ではこの知見からほ乳類キチナーゼが病原性真菌に含まれるキチンを分解し,その過程で生成されたキチンオリゴマーが自然免疫を増強すると仮説をたて,研究を行った。 本年度は,マウス AMCase を高分子キチンもしくはキチンを脱アセチル化して得られるキトサンを基質としてキチンオリゴマーやキトオリゴマーが生成されるかを検証した。その結果、脱アセチル化度の違いによってキトオリゴマーが生成されることを報告した (Wakita et al., 2021)。 また,ヒト Chit1 に変異を加え簡便なキチン検出方法の開発を行った。その結果四量体以上を好感度に検出できる系の開発に成功した (Yamanaka et al., 2022)。以前改良したFluorophore-Assisted Carbohydrate Electrophoresis (FACE) 法と検出法を組み合わせることによって,ほ乳類キチナーゼによって生成されたキチンオリゴマーの定量がより正確に行えるようになった。 これらの結果から,ほ乳類キチナーゼがキチンオリゴマーやキトオリゴマーを生成する可能性を見いだし,それらの定量・検出系の開発に成功した。これらの成果を元に,現在,生成されたオリゴマーと免疫応答に関する検証を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
・当初の計画どおり,Chit1 によって生成されたキチンオリゴマーが自然免疫を増強させる可能性を示唆する結果を得ている。 ・工学院大学生物医化学研究室との共同研究において,AMCase を脱アセチル化度の異なる基質に作用させた結果,AMCase がキトオリゴマーを生成する可能性を見出した (Wakita et al., 2021)。病原性真菌は脱アセチル化酵素を持つものも存在している。細胞壁上のキチンに脱アセチル化酵素が作用するか正確な報告はないが,細胞壁のキチンが脱アセチル化された場合を考慮する際には重要な知見となる。 ・当初の計画にはなかったが,東京薬科大学免疫学教室との共同研究において,以前報告した病原性真菌の産生するβ-1,6-D-グルカンを特異的に検出する方法を開発に続き,Chit1 の変異体を作成することでキチン,キチンオリゴマーを好感度に検出する方法の開発に貢献にした (Yamanaka et al., 2022)。
|
今後の研究の推進方策 |
[研究 1. ほ乳類キチナーゼは病原性真菌を分解しキチンオリゴマーを生成しうるか?] これまでに,Chit1 と AMCase の機能を比較することで,ほ乳類キチナーゼがキチンからキチンオリゴマーを生成しうる可能性を見出すことができた (Kimura et al., 2019, Wakita et al., 2021)。オリゴマーの生成には多量のほ乳類キチナーゼが必要になる。そこで,酵素の多量発現系の開発を行った。この研究成果を国際学術雑誌に受理されるよう努力する。 [研究 2. 生成されたキチンオリゴマーは自然免疫を増強するか?] ほ乳類キチナーゼによって生成されたキチンオリゴマーの存在下で,正常マウスから採取した腹腔や肺胞マクロファージおよび脾臓リンパ球を培養する。次にこれらの細胞内の炎症性サイトカイン (TNF-α・IL-1β) を ELISA で測定する。既に予備的な条件検討実験を終えており,再現性の確認を行っていく。 [研究 3. 自然免疫を増強する経路は何か?] キチンオリゴマーがマクロファージに特異的な自然免疫反応を誘導した場合,細胞内のケミカルメディエーターに焦点を当て,予想される誘導経路(細胞内カスケード・自然免疫受容体)を明らかにする。以上の研究をまとめた英文原著論文が,国際学術雑誌に受理されるよう努力する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度の学会予算には交通費やホテル宿泊代などが含まれていた。しかし,COVID19の影響によって3つの学会がオンライン開催となったため,その分の学会予算が次年度使用額となった。また,COVID19の影響によって予定よりも試薬などの備品の納期が遅れたため実験に多少の遅れが出たことにより,予定よりも消耗品の購入額が低くなったことがあげられる。
|