本研究で着目している、放線菌に対する生育誘導作用がイネいもち病菌に得意的な作用なのか、他の糸状菌でも見られるのかどうかという点に関して検証を行った。そのために、Fusarium属菌、Cordyceps属菌、Penicillium属菌を用いて、放線菌(streptomyces griseus)との寒天培地上における対峙培養を実施した。その結果、これらの糸状菌では放線菌に対する生育促進作用は観察されなかった。このことから、本現象は糸状菌一般的な現象ではなく、イネいもち病菌特異的な現象であることが示唆された。 次に、Fusarium属菌、Cordyceps属菌、イネいもち病菌に関して、水平型共培養容器を用いた液体培養での放線菌との共培養を実施した。本容器は2つの容器がメンブレンで仕切られていることから菌体同士を接触させることなく、共培養が実施できる。液体培養による共培養の結果、イネいもち病菌を含むこれらの糸状菌による放線菌の生育誘導は確認されなかった。寒天培地上でのイネいもち病菌による生育誘導は接触を介することなく起こることから、放線菌の生育誘導を引き起こす活性分子は、イネいもち病菌を寒天培地上で培養した際にのみ産生されていることが示唆された。 寒天培地上でイネいもち病菌を単独培養した場合と放線菌との対峙培養を行った場合とで産生される化合物に違いが生じるかどうかの検証を行った。メタノールで寒天培地から化合物を抽出し、TLCおよびシリカゲルカラムクロマトグラフィーを実施した。その結果、2つの条件においてイネいもち病菌が産生する化合物に顕著な差異は認められなかった。このことから、放線菌は放線菌の有無によらずイネいもち病菌が常に産生している化合物を認識することで生育が促進されることが強く示唆された。
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