海洋生物は医薬品の探索源として注目されており、地上とは異なる環境に適応した深海生物は浅瀬の海洋生物と比較してもユニークな構造や生物活性を有する二次代謝産物が含まれていることが期待される。しかしながら、アクセスの困難な深海生物は主にドレッジにより採集されるが、その採集過程において生物は破砕されるため、研究サンプルの量確保が難しく、深場海洋生物由来の天然化合物の報告例は少ない。そこで本研究では、これまで未利用資源とされてきた深海生物の分類不能な断片混合物を天然化合物の新たな探索源として有効利用することで新たな深海性の海洋天然化合物の同定を行った。 鹿児島県屋久新曽根(水深166~167 m)でドレッジ採集した深海生物の分類不能な混合物サンプルから天然化合物の探索および同定を行うための粗精製したスクリーニングサンプルを調製するとともに、同じドレッジ採集で得られた分類可能な深海の無脊椎動物サンプル99種の粗抽出物について、LC/MS分析を用いてた網羅的なメタボローム解析を行うことで、深海生物の二次代謝産物データベースを構築した。深海性生物混合物を探索源とした新規海洋天然化合物の探索研究のための基盤を整えたことで、深海生物の分類不能サンプルから同定した天然化合物の起源生物を迅速に、かつ、効率的に同定することが可能となった。「混合物からの探索研究」と「LC/MS分析を用いた網羅的な成分分析」を組み合わせることにより、これまで未利用資源とされてきた“深海”の分類不能な生物断片混合物を有効利用することで“深海”海洋生物由来の天然化合物を明らかにした。
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