研究課題/領域番号 |
21K20580
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田中 裕之 東京工業大学, 生命理工学院, 研究員 (60782042)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 異質倍数体 / 種分化 / 比較ゲノム解析 / スミレ属 |
研究実績の概要 |
DNA抽出法の検討とDNAシーケンス 植物からのDNA抽出法としてはC-TAB法が一般的に知られているが、スミレ属植物は多糖類やポリフェノール類などを多く含んでいることが原因で、他の植物と比較して抽出効率が悪かった。そこで、スミレ属植物に適したDNA抽出法を検討した。その結果、塩化ベンジル法をベースとした抽出法によって高分子DNAを高効率で抽出可能であることがわかった。本方法によって、異質倍数体スミレの葉から約35 μgのDNAを抽出できたため、Pacbio Sequel IIのCCS (Circular Consensus Sequencing) modeによってゲノムシークエンスを実施した。
2) RNAシーケンス 異質倍数体スミレの組織(葉、根、茎、花、蕾、匍匐枝)からRNAを抽出し、Illumina NovaSeq6000 によってRNA-seqデータを取得した。取得したRNA-seqリードをドラフトゲノムにテストマッピングしたところ約90%のリードがマッピングされていることを確認した。また、Trinityによるde novoアセンブルによって遺伝子セットを作成し、BUSCOを用いて完成度を評価した結果、双子葉植物に共通するSingle copy orthologs(eudicots_odb10)の検出率は96.6%であった。以上の結果から、今回取得したRNA-seqデータは遺伝子アノテーションに使用するうえで十分なクオリティであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Pacbio sequel IIによるシーケンスはCLR mode (数十kb以上の長く連続的な配列を取得)とCCS mode (高精度ロングリード)の2種類存在しており、CCS modeにより取得したリードデータを用いることで、多倍体ゲノムでも良好なアセンブル結果が得られることが報告されている。しかしながら、CLR modeと比べてCCS modeでのシークエンスには多くのDNA(2倍以上)が必要である。 研究計画段階ではCCS modeでのシークエンスに必要なDNA量を確保することが困難であると予想していたため、異質倍数体スミレのDNAシーケンスはPacbio CLR modeでの実施を予定していた。しかし、本年度の初期にDNA抽出法を検討し、抽出効率の向上に成功したため、Pacbio CCS modeでのシークエンス実施に必要なDNA量を確保することができた。そのため、研究計画を変更して、異質倍数体スミレのDNAシーケンスはPacbio CCS modeで実施した。これによって、当初の研究計画よりも完成度の高いゲノム配列を構築することができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1) ゲノムアセンブルと遺伝子予測の実施 Pacbio CCSリードによるゲノムアセンブルとHi-Cリードによるコンティグ配列のスキャフォールディングを実施し、染色体スケールのゲノム配列を構築する。遺伝子予測はRNA-seqデータを使用した方法、近縁種(V. pubescens)遺伝子とのホモロジー情報を使用した方法、プログラムによる機械的予測(ab initio)の3種類の方法によって実施し、最終的にそれぞれの予測結果を精査・統合する。
2) 染色体の由来推定とホメオログ遺伝子の発現量解析 まず、既報のViola pubescensゲノム との相同性比較によって、異質倍数体スミレのゲノム配列のそれぞれのサブゲノムを特定する。次に、異質倍数体スミレのサブゲノム間のシンテニー解析と座上する遺伝子の相同性比較によってホメオログ関係を明らかにする。最後に、異質倍数体スミレの各組織から取得したRNA-seqデータを用いて発現量解析を実施し、どのような機能を持ったホメオログ遺伝子がどちらのサブゲノムに偏っているかを特定することで、それぞれのサブゲノムがどのような生理応答に貢献しているかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた学会がオンライン開催となったため、旅費を計上しなかった。 また、研究計画段階ではDNAシーケンスは受託サービスの利用を予定していたが、予定を変更し共同研究者のもとで実施して頂くことになったため、DNAシーケンス費用が大幅に減少した。
DNA・RNA抽出試薬とライブラリ作製キットの購入費用、DNA・RNAシーケンス費用、植物栽培設備の増設費用として計上する。また,学会参加費も支出予定である。
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