バラ科サクラ属にはカンカオウトウやウメなどの果樹作物が含まれるが,多くはS-RNase型の自家不和合性を示すために,果実生産時には他家受粉を確保するためにコストがかかる.また,サクラ属の自家不和合性反応機構は他種のS-RNase型の反応機構と異なるとされるが,その特異メカニズムの詳細は未解明である.これら課題に対し,本研究では近年同定されたサクラ属に特異的に存在する自家不和合性因子であるMGSTに着目した.サクラ属に特異的な因子であるMGSTの分子機能の解明を介して,サクラ属に特異的な自家不和合性反応機構の解明を目的とした. サクラ属の自家不和合反応では,自家受粉した花粉が胚珠に向けて花粉管を伸長している途中で,花粉管伸長が停止する.MGSTが自家不和合反応のどのタイミングで機能するかを明らかにするために,アンチセンスオリゴを花粉に処理してMGSTの一過的発現抑制を誘引してから自家受粉を行った.複数の処理方法を試して,オリゴヌクレオチド処理自体による花粉へのダメージが少なくなる処理方法を検討したが,いずれも処理自体による花粉へのダメージが大きく,明確な判断に至ることのできるデータは得られなかった. MGSTのアミノ酸配列は,広義のグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)様の配列をしているが,他の生物種において十分にアミノ酸配列の類似したGSTタンパク質の分子機能に関する情報が不足しており,配列情報から分子機能を予測することが困難であった.そこで,in silicoでタンパク質の立体構造を予測する手法が近年急速に発展していることに着目し,タンパク質立体構造からMGSTの機能の予測を試みた.予測したMGSTのタンパク質立体構造と類似の構造をしたタンパク質をデータベースから検索したところ,標的分子のジスルフィド結合に対して酸化還元的に機能するタンパク質が多く見つかり,MGSTも同様の反応を制御する可能性が考えられた.
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