一般に異質倍数体種は祖先二倍体種に比べて高いストレス耐性を示す。これは、様々な環境に応じて同祖遺伝子の発現を調整し、使い分けることで、適応性を向上させてきたためと考えられている。近年、モデル植物の異質倍数体種において、ゲノム間クロストークによる発現バイアスと有用形質との関連性が議論されてきたが、特にコムギではゲノムの大きさと複雑性から理解が進んでこなかった。本研究では、倍数性進化の過程を人為的に再現した合成6倍体コムギ系統群と、祖先二倍体種のゲノム多型情報を組み合わせることによって、コムギにおけるトランスクリプトーム関連解析の適用可能性を検証した。 合成パンコムギ82系統ならびにABゲノム提供親の4倍体品種Langdon (Ldn)の開花1週間後の胚乳を材料にRNA-seq解析を行った。パンコムギ参照配列(the IWGSC RefSeq v2.1: Alaux et al. 2018)由来のABゲノムとタルホコムギ参照配列(Aet_v5.0: Wang et al. 2021)のDゲノムを統合した擬似合成パンコムギ参照配列に対しリードをマッピングしたところ、発現していた7726同祖遺伝子群のうち、84.1%はサブゲノム間で発現に差がなく、15.9%はいずれか1つのサブゲノムで高発現ないし低発現を示した。Ldnに対し合成パンコムギで高発現、低発現していた遺伝子数は82系統の平均で、Aゲノムにおいて132、380、Bゲノムでは97、238であった。Dゲノムにマップされたリードからは5890のSNPが抽出された。その内、Dゲノム由来の転写因子に非同義置換を生じ、種子長または種子高との間に相関係数0.7以上の高い相関を示すABゲノム由来の遺伝子の発現量を対象としたGWASで有意な関連を示すSNPが3つみつかった。今後、この3つの転写因子について個別に精査する。
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