慢性腎臓病(CKD)誘導マウスに対して、海洋性カロテノイド・フコキサンチン(Fx)を摂取させることにより、腎臓中のMCP-1やF4/80など炎症・浸潤関連因子のmRNA発現上昇が抑制されることを見いだした。CKDの病態進展には腎臓における免疫細胞の浸潤および炎症応答が関わることから、腎臓に蓄積したFx生体内代謝物(フコキサンチノール、FxOH)が炎症制御因子として働く可能性が予想された。これを検証するため、近位尿細管細胞HK-2およびマクロファージTHP-1間の炎症性相互作用に対するFxOHの影響を調べたところ、共培養によって誘導されるMCP-1のmRNA発現レベルの増加に対して、FxOHが抑制作用を示した。また、興味深いことに、Fx摂取したCKDマウスの腎臓では、αSMAやTGF-βなど線維化関連因子のmRNA発現増加の抑制を認めた。そこで、腎線維化と関連の深い、上皮間葉転換(EMT)に対するFxOHの影響について調べた。その結果、EMTによって誘導されるvimentinのmRNA発現レベルの増加や遊走活性の上昇に対して、FxOHが抑制作用を示した。これらの結果から、腎臓に蓄積したFxOHは、MCP-1などのmRNA発現抑制を介して炎症性相互作用を負に制御することにより、腎線維化を間接的あるいは直接的に抑制する機序が推察された。さらに、本課題で確立したアッセイ系を用いて、HK-2細胞の炎症およびEMTを抑制する食品因子の探索を行ったところ、FxOHに加えて、エビなど甲殻類に含まれるアスタキサンチンや、ノリなど海藻に含まれるルテインなどの海洋性カロテノイドが低濃度でも抑制作用を示す化合物として見いだされた。以上、本研究成果は、Fxをはじめとした特徴的な分子構造を持つ海洋性カロテノイドが、腎臓の炎症や線維化に対して抑制的に働く食品因子である可能性を示唆するものである。
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