研究実績の概要 |
軟骨魚類の鰓にもイオンを輸送する塩類細胞が多数存在することが確認されているが、その役割は明らかになっていない。そこで本研究では、申請者が発見したトラザメ胚期に発達する鰓の塩類細胞集団に着目し、軟骨魚類の環境適応機構の解明を目指すこととした。2021年度は、免疫組織化学染色により、トラザメ胚の鰓で発達する塩類細胞集団にはNa+/K+-ATPase (NKA)とNa+/H+ exchanger3 (NHE3)が局在し、海水中で酸塩基調節を行っていることが示唆された。2022年度は、NKAとNHE3を免疫組織化学染色した連続切片を用いて3D解析を行い、塩類細胞集団の立体構造を検証した。その結果、塩類細胞集団は鰓隔膜上の頭部に近い面にのみ観察された。一方、鰓隔膜の尾部側の面には単体の塩類細胞のみ観察された。次に、塩類細胞集団の酸塩基調節を調べるため、pH7, pH8及びpH9の海水を調整し、ステージ33のトラザメ胚を1週間飼育した。その結果、海水が塩基性になるほど、塩類細胞集団が大きく発達する様子が観察された。H+の排出する塩類細胞集団はpHが低くなるほど発達すると予想されたが、逆の結果になった。また、pH7およびpH9に調節した海水は、海水の強い緩衝作用により徐々にpH8に近づいてしまったため、飼育実験についてはさらなる検討が必要である。2021年度は、鰓が未発達なステージ31での胚において、真骨魚と同様に体表の塩類細胞が機能する様子が観察された。2022年度は、卵黄嚢上皮のホールマウント免疫組織化学染色を行い、体表と同様に卵黄嚢上皮にもNKA陽性細胞が観察された。また、ミトコンドリアの生体染色を行った結果、卵黄嚢上皮にミトコンドリアに富んだ細胞が観察された。以上の結果から、真骨魚と同様に、軟骨魚の鰓の発達前の胚では、卵黄嚢上皮及び体表に塩類細胞が分布することが示された。
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