相利共生の構築において、捕食者の存在やその密度がどれほど作用するかは未だ不明である。これまでの研究では、成長や繁殖という個体の利益が最大になる場合に相利共生が成立すると考えられている。ところが申請者が研究を進める過程で、イソギンチャクとヤドカリの共生系では、個体間の利害関係だけでなく捕食者の密度という外部環境への応答が重要となることが予想された。そこで本研究課題では、本共生の継続および解消に関わる外部環境の影響を野外調査および行動実験で解明しようと考えた。 しかしながら、研究を進める過程で対象とするイソギンチャクに複数種の未記載種が含まれていることが判明した。正しい共生ペアを用いて引き続く実験を行うためにも、各未記載種に対して詳細な形態分析とDNA解析を行い、それらの分類学的混乱を解決した。これまでに2種の分類学的位置が明らかとなっており、そのうち1種の記載を投稿論文として発表している。もう1種については現在投稿準備中である。 令和4年度に飼育実験を行うべく設備を整えたが、対象としていたヤドカリが飼育環境下では長く生きることができないという問題に直面した。令和5年度からは飼育下の水温条件や餌の種類を再度検討することで実験を進める予定であったが、研究代表者が異動となり、かつ異動先には十分な飼育設備が無かったため、当初の計画通りに実験を進めることができなかった。その対応策として、当該共生ペアに対して炭素窒素同位体分析を実施し、今後、長期間の飼育を行うためにも、対象種が何を栄養源にしているのかの把握を試みた。さらには、イソギンチャクが共生の「継続」または「解消」させている状態であるかを正確に評価するためにも、イソギンチャクの貝殻への付着位置を詳細に記録した。当該研究で得られた基礎的知見を、2023年11月の第17回日本刺胞・有櫛動物研究談話会にて口頭発表した。
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