研究課題/領域番号 |
21K20592
|
研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
森田 哲朗 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (10833684)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 代理親魚技法 / 生殖細胞移植 / 新規養殖魚開発 / 新規アジ科養殖魚 |
研究実績の概要 |
我が国の養殖業において、養殖魚種の多様化が重要な課題である一方、養殖に全く利用されていない美味しい魚種が多数存在する。これまで養殖に用いられてきた魚類は、親魚や種苗の確保が容易な種に限られ、そうでない場合はどんなに美味しい魚種であっても養殖利用することは難しかった。本研究ではこの問題を解決するために、養殖未利用種の生殖細胞を飼育が容易な近縁の宿主魚に移植し、当該種の卵や精子を生産させることを目指す。本課題では、養殖に未利用であった多様なアジ科魚類において、代理親魚技法を利用することによって、今まで評価されてこなかった隠れた優良種を発掘し、新しい養殖種を生み出すことを目指す。 2021年度はまず、①養殖未利用のアジ科魚類およびその生殖細胞の収集を行った。千葉県や鹿児島県の定置網漁業者から候補となる11魚種(アカアジ、ムロアジ、オキアジ等)を調達し、精巣あるいは卵巣を採取し凍結保存を行った。これら魚種の多くは、美味であることが知られる一方で、種苗や親魚の安定的な供給が困難なために養殖が行われていない種であり、本研究の候補魚種の条件に合致する。また、これら以外にも、ギンガメアジやオアカムロなど数種のアジ科魚類については、入手したものの生殖細胞を十分に回収できず凍結保存が出来なかったため、2022年度も引き続き生殖細胞の凍結保存に挑戦する。また、生殖細胞が採取できた魚種のうち②ムロアジについては、2021年5月に生殖細胞のマアジ宿主への移植を実施した。2022年度は、これら宿主を成熟サイズまで養成し、ドナー由来の配偶子生産が見られるか否かを検証する。これと並行し、2021年度に収集した各アジ科魚類のうち、アカアジやオキアジなど、世界的にも養殖生産実績のない種について生殖細胞のマアジへの移植試験を実施する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度はまず、①養殖未利用のアジ科魚類およびその生殖細胞の収集を行った。アジ科魚は、主に千葉県館山市の定置網業者より調達した。その結果、アカアジ、ムロアジ、オキアジ等の計11種のアジ科魚類を入手し、その生殖腺を凍結保存することができた。これら以外にも、ギンガメアジなど数種のアジ科魚類についても魚体を調達できたものの、鮮度が低かったり、魚体サイズが極めて小さかったため、移植実験に供するに十分な量の生殖腺を凍結保存が出来なかったため、2022年度も引き続き入手を試みる。また、鹿児島県南さつま市の魚市場で水揚げされたアジ科魚類の調達を行い、イトヒキアジやヨロイアジの生殖腺を採取した。 また、生殖細胞が採取した魚種のうち②ムロアジについては、2021年5月に生殖細胞のマアジ宿主200尾への移植を実施し、2022年3月末時点で8尾の宿主が生残した。2022年度は、これら宿主を成熟サイズまで養成し、ドナー由来の配偶子が生産されるかを検証する。これと並行し、2021年度に収集した他のアジ科魚類の生殖細胞のマアジ宿主への移植試験を実施する。 このように2021年度は、多くのアジ科魚類の生殖細胞の凍結保存に成功し、またその一部はマアジ宿主への移植にも用い、生残した宿主魚は8尾と少ないが、配偶子が得られる見込みはある。また当初、生殖細胞移植の宿主として適したマアジ仔魚の発生段階の最適化を計画していたものの、急激な水温上昇によりマアジの産卵期が例年より大幅に早く終了し、未実施となった。2022年度は、飼育設備の拡充により産卵期序盤より移植実験の試行回数を大幅に増やし、宿主における移植適期の探索のためのデータ収集を行うと同時に、ドナー由来配偶子を生産するために十分な尾数の宿主魚を作出する予定である。これにより、現状では「やや遅れている」としたが、十分に挽回できると見込んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度も、初年度から引き続き①養殖未利用のアジ科魚類およびその生殖細胞の収集を行う。2021年度に生殖細胞の凍結保存が実施できた魚種のみならず、状態の良い生殖腺が入手できなかったギンガメアジやオアカムロなどその他のアジ科魚類についても、生殖細胞の凍結保存に挑戦する。収集場所は研究フィールドのある千葉県館山市や、2021年度にもサンプリングを実施した鹿児島県南さつま市に加え、和歌山県串本市などにおいても収集を試み、生殖細胞を凍結保存するアジ科魚種の拡充を図る。 また、②ムロアジについては、2021年5月に生殖細胞のマアジ宿主への移植を実施し、生き残った宿主魚8尾の飼育を継続している。2022年度の初夏には、これら宿主が成熟サイズにまで成長することが見込まれるため、成熟した個体がドナー由来の配偶子を生産するか否かを検証する。もしドナー由来配偶子を生産する宿主個体が見つかった場合には、交配試験を実施し、ドナー由来次世代個体の作出を試みる。これと並行し、2021年度より収集している他のアジ科魚類の生殖細胞についても、マアジ宿主への移植試験を実施し、これらアジ科魚類の生殖細胞を保持するマアジ宿主を作出する。特に、アカアジやイトヒキアジなど、美味である一方で養殖例のない魚種を中心にドナー種を選抜し、移植試験を実施する。 さらに、③ドナー配偶子を効率的に生産するため、マアジ宿主の不妊化に挑戦する。宿主の不妊化としては、他魚種において、3倍体化や不妊雑種の作出、生殖細胞特異的に発現する遺伝子の機能阻害や機能破壊などの手法が確立されているが、本研究では最も汎用性の高い不妊化手法と言える3倍体化を試みる。具体的には、マアジの受精卵を通常の飼育水温である20℃よりも著しく低い5℃の水温に曝すことで3倍体化を誘導する。実際に3倍体化に成功した場合には、移植用の宿主として用いる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
想定していたよりも生殖細胞移植実験の施行回数が少なかったため、購入を予定していた移植実験関連試薬の購入実績がやや少なくなった。その分、2年目は実験施行回数が増えるため、初年度に購入しなかった分も含めて実験用試薬を購入し、予算を使い切る見込みである。
|