研究課題
我が国の養殖業において、養殖魚種の多様化が重要な課題である一方、養殖に全く利用されていない美味しい魚種が多数存在する。これまで養殖に用いられてきた魚類は、親魚や種苗の確保が容易な種に限られ、そうでない場合はどんなに美味しい魚種であっても養殖利用することは難しかった。本研究ではこれを解決するため、未利用種の生殖細胞を飼育が容易な近縁宿主魚に移植し、ドナー種の卵や精子を生産することを目指す。本課題では、養殖未利用であった多様なアジ科魚において、代理親魚技法を利用することで、今まで評価されてこなかった隠れた優良種を発掘し、新しい養殖種を生み出すことを目指す。2021年度はまず、①養殖未利用のアジ科魚類11種を収集し、その生殖細胞の凍結を行った。このうち②ムロアジについては、2021年5月に生殖細胞のマアジ宿主への移植を実施した。2022年6月に宿主5尾が成魚となり、2尾が精子を生産した。その精子と宿主ヒレからゲノムDNAを抽出し、2座のマイクロサテライト(MS)について多型を確認した。その結果、1尾の精子とヒレのMS配列が完全に異なっており、精子とヒレの細胞のDNAが別個体に由来する、つまり精子がムロアジドナーに由来することが強く示唆された。さらに、この精子を用いて野生型のマアジ卵との受精実験に供した結果、4%と低孵化率ではあったものの約900個体の仔魚が孵化した。孵化後3日までに多くの個体が斃死したため生残した約100個体をサンプリングした。現在MS解析を行っており、ドナーと同一の多型が観察されれば、マアジ代理親魚が機能的なムロアジ精子を生産したと証明される。同時に、残りの宿主にメスがいた場合、採卵し、代理親精子との交配でドナームロアジの復元を試みる。また、これまで収集した他のアジ科魚類生殖細胞についても移植実験を介した配偶子生産を行い、次なるアジ科未利用魚の養殖魚化を目指す。
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Aquaculture
巻: 560 ページ: 738490
10.1016/j.aquaculture.2022.738490