研究実績の概要 |
野外観察では、本年度は土壌全リン濃度の異なる、日本の同緯度帯に位置したコナラが優占する6つの森林で調査を行った。表層のコナラの非根圏土壌と根圏土壌を採取し、同時にコナラの三次根までの細根滲出物を野外で獲得した。採取した土壌のリン画分、微生物バイオマス炭素・リン濃度、ホスファターゼ活性を求めた。細根滲出物に関しては有機酸濃度および全炭素濃度を求めた。2021-2022年度の研究成果をまとめると、火山灰土壌としての特徴が小さいリン濃度が低い森林では樹木細根有機酸分泌速度は高い傾向が見られた。非火山灰土壌では微生物バイオマスや酵素活性を高めることにより根圏のリンの無機化が促進され、植物が利用可能な可給態リンを増大させ効率よくリンを獲得している可能性が示唆された。一方、火山灰土壌としての特徴が大きい森林では、樹木細根有機酸分泌速度は低い傾向が見られた。火山灰土壌では非晶質鉱物に吸着するリン濃度も高いが、全リンが高いことにより可給態リンも高濃度で存在することから、樹木は非晶質鉱物に吸着したリンを積極的に獲得する必要がないが、火山灰土壌はリンの供給源になっている可能性が示された。 また、栽培実験では有機物層として愛宕山の表層土壌と鉱物層として鹿沼土を用いて3処理(1:混合, 2:上;愛宕山, 下;鹿沼土, 3:上;鹿沼土, 下;愛宕山)に分け、コナラ種子を114日間栽培し、上層と下層ごと細根のホスファターゼ活性と有機酸分泌速度および土壌リン画分濃度を調べた。ホスファターゼ活性は全処理で下層で高いことに加えて土壌有機態リン濃度と正の傾向が見られた。有機酸分泌速度は全処理で下層で高いことに加え、下層の有機酸分泌速度は土壌Al,Fe吸着リン濃度およびその栽培前後の変化量と有意な正の関係であった。土壌深度により樹木はリン獲得戦略を変化させていることが示唆された。
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