研究実績の概要 |
本研究目的である海洋性ケイ藻における無機炭素流路の制御機構を解明するため、新奇CO2輸送体候補を珪藻ゲノムデータベースより探索した。その結果、哺乳類が有するRhesus factor様遺伝子と相同性を有する6遺伝子の配列を取得した。そこで、実際のケイ藻細胞における候補遺伝子の転写発現量をリアルタイムPCRにより調べた結果、6つの候補遺伝子Rh1, Rh2, Rh3, Rh4, Rh5, およびRh6 全てが高濃度CO2および低濃度CO2条件時に発現していた。この結果は、候補遺伝子がケイ藻細胞内で機能している可能性を示唆している。加えて、特にRh5が低CO2環境において発現誘導したことから、環境CO2の輸送に関与している可能性が高いと考えられた。続いて、標的とした遺伝子の機能解析を行うため、過剰発現株の作製を試みた。蛍光タンパク質であるGFPを標識として用い、標的タンパク質と融合してケイ藻細胞に発現するコンストラクトを作製、野生型ケイ藻細胞に導入した。抗生物質を用いた一次選抜により抗生物質耐性株を取得したが、現在のところGFP発現株は得られていない。また、ゲノムデータベースにおいて翻訳領域が不明とされていた候補遺伝子に対し、RACE法によるクローニングを行ったところ、新たな全長配列を取得することに成功した。さらに、本研究で全長配列を取得した候補遺伝子と既存のデータベースから予測された候補遺伝子を比較したところ、既知の遺伝子配列は明らかに短かいことが判明した。そこで、改めて候補遺伝子の配列をクローニングし直した結果、これまでとは異なる翻訳領域が上流に存在することが明らかとなった。この遺伝子領域にはタンパク質のN末端領域がコードされ、タンパク質の細胞内局在および機能活性に影響する。したがって、本成果は海洋性ケイ藻の新奇輸送体を解析する上で重要な知見になると考える。
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