研究課題/領域番号 |
21K20600
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
小河 澄香 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 研究員 (10816250)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 菌根菌 / セシウム / 物質動態 / 溶出 |
研究実績の概要 |
本研究は、樹木の放射性Cs集積を抑制する技術を開発するために、樹木のCs吸収に影響する菌根菌のCs溶出機能を明らかにすることを目的としている。本年度の主要な結果として、以下の二点が挙げられる。
1)菌株の採取 菌根菌のCs吸収能とCs可溶化能間には一定の関係があると推測されている。そのため、既報においてCs吸収能が高いとされているツチグリ属(4菌株)およびニセショウロ属(3菌株)並びにCs吸収が低いとされているキシメジ属(3菌株)、ヌメリイグチ属(8菌株)およびシメジ属(3菌株)を含む菌根菌50菌株を、福島県川内村、田村市、飯舘村、茨城県北茨城市および森林総合研究所内の森林にて採取した130個の子実体から分離した。
2)菌根菌の可溶化能 菌根菌が分泌する有機酸等の酸性物質は、AlやFeと錯体を形成すると共に土壌鉱物に固定されているCsの可溶化に関与している報告されている。そこで、錯体の形成を視覚的に判定可能なCAS試験により、採取した菌株の錯体形成能を調査した。その結果、ツチグリ属とヤマドリタケ属の菌株の錯体形成能は、ニセショウロ属とヌメリイグチ属の菌株より約3倍高いことを明らかにした。ツチグリ属については4菌株を試験に供したが、錯体形成能は菌株により3倍異なっていた。なお、キシメジ属とシメジ属の菌株に錯体形成能は認められなかった。当初の計画にはなかったが、分離に成功した腐生菌の一部の菌株にも錯体形成能が認められ、これらの錯体形成能はニセショウロ属とヌメリイグチ属の菌株と同程度であった。このように、錯体形成能は菌株が所属する属による差異に加え、菌株によっても大きく異なっていると推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
採取した菌根菌の菌株に対してDNA解析を行い、目的とする菌株の確立に成功していることを確認した。これらの菌株をCAS試験に供することにより、菌根菌が有するCs可溶化能の指標となる錯体形成能についても調査した。現在、これら菌株のCs吸収能およびCsの可溶化に関与する物質の特定を行っている。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、長期間出勤できなかったため、当初の計画からはやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
固定態Csの可溶化能に対する指標の一つである菌株のCs吸収能を調査する。固定態Csの可溶化に関与している物質を探索するため、菌株のCs吸収能およびCAS試験により得られた指標をもとに、菌株が分泌する有機酸等の酸性物質を中心にGC-MSを用いて同定する。同定された物質については分泌量の変化も調査する。さらに、可溶化に関与している物質を特定するため、同定された物質をバーミキュライト鉱物に固定したCsに作用させ、遊離するCs量を調査する。これらにより、樹木のCs吸収に影響する菌根菌のCs溶出機能を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大により、出勤できない期間が長く、当初の予定通り実験を遂行することが困難だったため。
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