鳥インフルエンザウイルス(AIV)は8分節のRNAをゲノムに持ち、遺伝子再集合により、遺伝学的に多様なウイルス株が出現する。H5およびH7亜型のAIVの一部は、鶏の致死率の高い高病原性AIVに分類され、特に経済被害が甚大である。近年、H5亜型の高病原性AIVが野鳥間で定着し、変異を重ねながら流行している。 本研究は、AIVの全遺伝子分節を標的にした塩基配列解析法を確立し、流行株の性状変化を迅速に検出することを目的とした。本研究では、ナノポアシークエンサーflongle用いて、1度に複数株のAIVの全ゲノムを決定する系を構築した。 鹿児島県出水平野は、毎年希少ツルが1万羽以上越冬することで知られている。2022/23年越冬シーズン、鹿児島県出水市のツルのねぐらの水から24株のH5N1亜型高病原性AIVが分離された。その他、H3N8亜型およびH10N6亜型のAIVも15株分離された。さらに、希少ツル種を含む野鳥110検体からH5N1亜型AIVが分離された。H5亜型HA遺伝子の系統樹解析から、鹿児島分離株は、韓国分離株と近縁であり、2021/22年シーズンに鹿児島で流行した株とは異なるクラスターに属していた。このことからも、野鳥の間H5亜型高病原性AIVが感染を繰り返し、変異を重ねていることが分かる。今後、鹿児島県以外の国内分離株とも遺伝子構成を比較し、22/23年シーズンのH5N1亜型ウイルスの流行動態を解明する。
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