研究実績の概要 |
本研究の目的は、細胞の休眠状態において出現する「遅い時間スケール」が代謝ダイナミクスから生じ得るか、また生じるのであればどのような機構が遅い時間スケールの出現に寄与しているかを計算機シミュレーションを通じて明らかにすることである。この「遅い時間スケール」は飢餓状態の大腸菌が生じる「記憶現象」や抗生物質などへの耐性にも関連しているという報告があるため、遅い時間スケールの理解は「休眠状態の理解」という基礎科学的な問いにとどまらず、応用分野を含めた他分野への影響が将来的に見込まれる。 本年度は、すでに発表されている複数の微生物代謝動力学モデルの計算機シミュレーションを通して、「遅い時間スケール」の出現や、それにつながり得るような代謝状態の擾乱について詳細に研究した。具体的にはChassagnole et al. (2002), Khodayari et al. (2014), Boecker et al. (2021), Thornburg et al. (2022)にて発表された代謝動力学モデルをシミュレーションし、①ATPなどの補酵素のダイナミクスと②補酵素以外の代謝物質によって構成されるネットワークの疎構造が協働して、遅い緩和といった現象が生じることが分かった。また、上述した2要素を含むミニマルモデルを構築することで、これらが「遅い緩和」を生じさせるために必要最低限の条件であることも明らかになった。 本研究の成果は2022年にPhysical Review Research誌に一部掲載され、また後継研究の内容は現在論文執筆中である。
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