研究課題/領域番号 |
21K20636
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹俣 直道 京都大学, 工学研究科, 助教 (40883830)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | SMC / アーキア / 染色体構造 / 進化 |
研究実績の概要 |
SMC複合体はゲノム高次構造の制御に不可欠のタンパク質であり、バクテリアではSMCとKleisin、そしてKleisin結合因子であるKiteという3種のサブユニ ットがSMC複合体を構成している。一方、真核生物のSMC複合体では多くの場合Kiteの代わりにHawkサブユニットが用いられている。興味深いことに、真核生物の起源となった原核生物ドメインであるアーキアはSMC、Kleisin(ScpA)、Kite(ScpB)をコードする遺伝子を持つ一方、アーキアのScpAとScpBは複合体を形成しないことが組換えタンパク質を用いた先行研究で示されている。真核型SMC複合体の誕生やゲノムの構造化機構の進化を知る上でアーキアのSMC複合体は重要な研究対象だが、その機能については不明な点が多い。本研究ではこの問題に取り組むため、超好熱性アーキアT. kodakarensisにおけるSMC複合体の機能を研究する。手法としては、3C-seqと呼ばれるゲノム構造解析法や、遺伝子ノックアウトをはじめとする遺伝学的手法などを組み合わせる。今年度の進行状況は以下の通りである。 SMC、ScpA、ScpBをそれぞれ単独で破壊した株の作製に成功した。これらの株と親株を用いて3C-seqを行ったところ、親株でみられた染色体ドメイン構造がいずれの破壊株でも消失していた。この結果は、先行研究のモデルとは異なりアーキアにおいてもScpBがSMC複合体の機能に必要である可能性を示唆している。また、AlphaFold2を用いた複合体構造予測および酵母ツーハイブリッド法によるタンパク質相互作用解析から、アーキアSMC複合体におけるScpB結合部位の候補を同定した。さらに、SMC複合体依存的に形成されるドメインの境界部に特徴的な回文様配列を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
先行研究からは予想されなかった「ScpBはアーキアSMC複合体の構成要素としてその機能に必要である」という可能性を示すことができただけでなく、その詳細に分子レベルで迫るための手がかりを得た。また、染色体ドメインの境界を規定する可能性があるDNA配列の同定にも成功した。この配列に結合する因子を同定し、SMC複合体との関連を明らかにすることで、アーキアSMC複合体がゲノム構造をどう規定するかについての知見が大きく広がると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
ScpBがSMC・ScpAと同一経路で機能するかを検証するために多重破壊株の作製を行うとともに、各因子がゲノム上で共局在するかをChIP-seqにより調べる。また、ScpBがSMC-ScpAとどう相互作用するかを生化学的に検証する。さらに、染色体ドメインの境界部に結合する因子を同定し、SMC複合体との機能的関連を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初はSMC、ScpA、ScpBのうち少なくとも1つ以上については破壊株の作製が困難であると予想し、過剰発現株の作製を検討していた。しかし、いずれの因子についても単独破壊株の作製に成功したため、作製・解析を試みた株の数が予定よりも少なくなって余剰金が生じた。一方、今年度得られた実験結果から多重破壊株の作製及びその解析を追加で行う必要が生じたため、今年度の余剰金はそのための費用として使用する予定である。
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