SMC複合体はゲノム高次構造の制御に不可欠のタンパク質であり、バクテリアではSMCとKleisin、そしてKleisin結合因子であるKiteという3種のサブユニットがSMC複合体を構成している。一方、真核生物のSMC複合体では多くの場合Kiteの代わりにHawkサブユニットが用いられている。興味深いことに、真核生物の起源となった原核生物ドメインであるアーキアはSMC、Kleisin(ScpA)、Kite(ScpB)をコードする遺伝子を持つ一方、アーキアのScpAとScpBは複合体を形成しないことが組換えタンパク質を用いた先行研究で示されている。真核型SMC複合体の誕生やゲノムの構造化機構の進化を知る上でアーキアのSMC複合体は重要な研究対象だが、その機能については不明な点が多い。本研究ではこの問題に取り組むため、超好熱性アーキアT.kodakarensisにおけるSMC複合体の機能を研究する。手法としては、3C-seqと呼ばれるゲノム構造解析法や、遺伝子ノックアウトをはじめとする遺伝学的手法などを組み合わせる。今年度の進行状況は以下の通りである。
SMC複合体依存的に形成される染色体ドメインの境界部を規定する因子として、核様体結合タンパク質の一種であるTrmBL2を同定した。また、TrmBL2はSMC複合体がドメイン境界に集積するのに必要であった。真核生物では、SMC複合体がDNAループを形成して押し出していくことで染色体構造をコンパクトにし、さらにこのループ押し出しが特定のDNA結合タンパク質によって止められることで染色体ドメイン構造が形成される。今回得られた結果は、真核生物におけるドメイン形成機構と類似したメカニズムがアーキアに存在することを示唆している。
|