研究課題/領域番号 |
21K20640
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
加生 和寿 九州大学, 薬学研究院, 助教 (90726019)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / mtDNA / 複製 / 試験管内解析 |
研究実績の概要 |
NLRP3インフラマソームと呼ばれる蛋白質複合体を介した炎症誘導は病原菌に対する恒常性維持に必須の自然免疫系の一種であり、その異常は神経変性疾患など様々な疾患の一因となり得る。最近の研究により、免疫細胞が細菌由来リポ多糖(LPS)などを感知することでミトコンドリアゲノム(mtDNA)が速やかに複製され、細胞内mtDNAコピー数が3倍に増加することが報告された。次いでさらなるmtDNA修飾によりNLRP3活性化に必須のmtDNA由来シグナルが産生される。一方で、炎症時におけるmtDNA複製モードは解析されておらず、その促進メカニズムと制御様式は未解明である。本研究では特にNLRP3炎症反応の起点となるLPS依存的mtDNA複製における複製モードとその制御様式の解明を目指す。 申請者は研究計画に沿ってLPS刺激時におけるmtDNA複製促進機構の解析を進めた(九州大学大学病院検査部 後藤 和人 助教、現:東海大学医学部 准教授との共同研究を含む)。マウス由来マクロファージ細胞などの培養細胞系を用いてLPS刺激を行い、定量PCR法を用いてmtDNAコピー数変化の検出を複数回試みたが過去の報告(Zhong et al., 2018 Nature)に見られるようなLPS依存的mtDNAコピー数の増加は見られなかった。このような背景から申請者は試験管内でのmtDNA複製系の構築と同系を用いた制御因子の探索に重点を置くこととした。現在までに申請者はミトコンドリア由来蛋白質とmtDNAとを混ぜることにより部分的に複製反応を誘導させることに成功している(九州大学理学研究院 高橋 達郎 教授との共同研究を含む)。今後は試験管内系をさらに改良することでmtDNA複製制御因子の同定を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 炎症時mtDNA複製制御の解析 過去の報告(Zhong et al., 2018 Nature)で見られているLPS刺激時におけるmtDNAコピー数増加について、マウス由来マクロファージ細胞を用いた定量PCR法により複数回検出を試みたが再現性は得られなかった(九州大学大学病院検査部 後藤 和人 助教、現:東海大学医学部 准教授との共同研究を含む)。 2. 炎症時mtDNA複製を駆動する因子の探索 上記の通り過去の報告(Zhong et al., 2018 Nature)の再現性が得られなかったことから、申請者は研究の進行に支障があった際の代替案である試験管内でのmtDNA複製系の構築を中心に進めている。現在までに申請者はミトコンドリア由来蛋白質とmtDNAとを混ぜることにより部分的に複製反応を誘導させることに成功している(九州大学理学研究院 高橋 達郎 教授との共同研究を含む)。このように申請時には想定していなかったトラブルに苦慮したが、一方で代替案で一定の成果が得られたことから概ね順調に進展したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は試験管内mtDNA複製系を用いた制御因子の探索を中心に研究を展開する。mtDNA複製開始には転写により生じるDNA-RNAハイブリッド形成が必須であることからミトコンドリア転写因子群(DNA結合因子TFAMなど)のリコンビナント蛋白質を精製し、これら因子のmtDNA複製への影響を試験管内で解析する。加えて、複製装置(TWINKLEヘリカーゼ、一本鎖DNA結合因子mtSSBなど)、及び複製モードの制御に機能することが示唆された既知因子(PrimPol DNAプライマーゼ/ポリメラーゼなど)についても同様に試験管内でのmtDNA複製への影響を検証する。これら候補因子の試験管内解析を通じて通常時、あるいは炎症時におけるmtDNA複製制御の基盤的原理の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本プロジェクトにおいて申請時に計画していた培養細胞を用いたmtDNAコピー数解析でトラブルが生じ、試験管内実験系を主体とした解析にシフトした。そのため培地などの細胞培養に必要な試薬類の購入量が想定していた分より少なかったため次年度使用額が生じた。次年度繰越分は放射性試薬の購入や試験管内解析に用いる試薬、あるいはmtDNA複製装置の抗体購入などに充てることを計画している。
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