研究課題/領域番号 |
21K20644
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大塚 浩晨 早稲田大学, 理工学術院, 助手 (20907167)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 磁気受容 / ラジカル形成反応 / クリプトクロム / 分光解析 |
研究実績の概要 |
未だ詳細な機構が解明されていない鳥類の磁気受容機構解明に向け、磁気受容候補分子クリプトクロム (CRY) の解析に取り組んできた。鳥類の磁気受容は、光励起によってCRY内部に形成された2つの不対電子の磁気感受性を利用して達成されると目されている。申請者らのグループの先行研究によって、ニワトリが持つCRY4 (cCRY4) におけるフラビン発色団 (FAD) の青色光依存的なラジカル形成能が示され、cCRY4分子内のチロシンのラジカルがFADラジカルと不対電子の対をなしている可能性が推定された。しかしながら、チロシンラジカルの形成位置や磁気受容における役割は不明であった。また、FADラジカルの形成とcCRY4の立体構造変化の関係を解明するためのツールとして、形成されるラジカル種を特定の状態で留める変異体が複数作製されたが、いずれも野生型に比べて収量が数十倍から数百倍に低下しており、解析に必要なサンプルを得ることが困難であった。 今年度は、研究活動スタートアップとして、チロシンラジカル形成部位の同定とチロシンラジカルの役割の解明、およびラジカル種と構造変化の関連性の解明を目指し、その準備段階としてチロシンラジカル形成の候補位置であるチロシンの変異体の作製と、獲得の困難な変異体サンプルの収量改善を試みた。作製したチロシン変異体の解析から、磁気受容機構の解明の一助となり得る興味深い結果が得られたため、詳細な解析に向けてさらに複数の変異体を作製して解析した。また、変異体の発現・精製系を改良した結果、従来に比べて最大約30倍程度の収量増加に成功した。これによって構造解析や磁気効果測定に必要な高濃度のサンプルを得ることができ、従来は高速分光解析が不可能だった一部のサンプルの解析に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
チロシンラジカルの形成位置や役割を解析するために必須であるチロシン変異体の作製に成功していることから、当初の目標の1つを達成できている。また、得られたチロシン変異体サンプルを用いた解析が進み、興味深い結果を得ることができた。その解析結果をもとに、当初の目標として設定していなかったものの、新たに複数の変異体の作製へと取り組んだ結果、すべての変異体の作製と解析に成功した。これらの変異体サンプルを用いてさらに詳細な測定・解析・議論が可能となり、磁気受容機構に関する詳しい考察が可能となりつつある。さらに、上記の研究進捗と同時に、ラジカル形成と構造変化の解明に向けた最大の障壁であるサンプルの収量問題の改善に成功し、これまでよりはるかに高濃度のサンプルの獲得が可能となった。これによって、サンプル濃度のために不可能だった様々な測定を実施できる可能性が高まり、実際に従来のサンプルでは測定できなかった高速時間分解能の分光器による測定・解析という目標を達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、複数のチロシン変異体および野生型cCRY4を用いた比較解析を進め、cCRY4の光反応におけるチロシンの役割およびその重要性を調査していく。野生型および変異体において得られた分光スペクトルを、様々な観点から分解や再構築などによって解析し、チロシンラジカルによる速度論的な効果を定量的に解析していく。同時に、チロシンラジカルの形成によってFADラジカルの反応経路がどのように変化していくのかといった、定性的な影響も調査していく。同様に、ラジカル形成反応を制御する変異体においても、初めに詳しい高速分光測定による解析が必要となる。これまで決定できていなかったラジカル制御変異体のラジカル形成反応経路を決定し、野生型と変異体の両方において詳細な反応経路を把握した上で、構造変化の経路の違いを調査していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度後半期から次年度前半期にかけた助成のため、次年度前半期分を計上した。次年度分の助成は、タンパク質発現に必用な微生物のための培養液の材料および、タンパク質精製に必要な試薬・物資等の購入に使用する。
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