様々な鳥類において地磁気に応答した行動が報告されているものの、その根底にあるメカニズムは未だ大部分が未解明であるため、その機構解明を試みてきた。鳥類の磁気受容は、光エネルギーが磁気受容分子内部に引き起こす電子遷移によって形成される2つの不対電子 (ラジカル) 化学反応が磁気を受けて分岐することを利用していると推定されている。そのため磁気受容分子は光受容能を持つことが前提であり、この性質を持つクリプトクロム (CRY) が磁気受容分子の候補として挙げられている。申請者らのグループによって、ニワトリの光受容器官である網膜に発現しているCRY4 (cCRY4) のフラビン発色団 (FAD) の光受容およびラジカル形成が示された他、FADラジカルの形成と同時期にcCRY4を構成するアミノ酸の1つのチロシンがラジカル化している可能性が示唆された。また、FADラジカルの化学反応が2経路に分岐していることが示された。しかしながら、FADラジカルの分岐反応におけるチロシンラジカルの関与は不明であった。 今年度は、前年度に作製した3つのチロシン変異体サンプルを大量に作製し、変異体および野生型のcCRY4を分光学的に比較解析した。照射フォトン数とフラビン発色団の酸化還元状態の推移の関係を解析し、野生型と変異体における量子収率の比較も実施できた。また、ミリ秒時間スケールでの分光解析により、分岐した2つのFADラジカルの反応の時定数を算出し、野生型と変異体において算出されたそれらの値を定量的に比較することが可能となった。さらに独自の解析によって、各サンプルにおいて分岐した2つの反応の量比を解析・比較した。これらの測定・解析の結果から、変異体において分岐反応が消失または著しく減弱していることが示唆され、野生型において見られる反応の分岐にはチロシンラジカルの形成が必要である可能性が見出された。
|