研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、ブラストイドの作成効率向上、ブラストイドに含まれる原始内胚様数の上昇を目指し、ナイーブ型ヒトES細胞からブラストイドへの分化誘導条件の検討を行った。これまでナイーブ型ヒトES細胞からブラストイドへの分化誘導過程が、実際の着床前ヒト胚のどのステージに対応するか不明なため、サイトカイン・阻害剤の添加開始、あるいは停止時期の最適化が困難であった。そこで、ごく最近に報告されたヒト原始内胚葉の各分化マーカー(Corujo-Simon et al., 2023)を用い、ナイーブ型ヒトES細胞からブラストイドへの4日間の誘導過程の各時期のサンプルに対して免疫蛍光染色を行い、実際の胚発生に対応する発生ステージを明らかにした。このステージングをもとに、サイトカインや阻害剤の添加開始・終了時期を詳細に検討した。その結果、原始内胚葉の数を増殖させるサイトカイン・阻害剤を複数見つけることができた。しかし、正常な胚を模倣したブラストイドを作成するためには、単に原始内胚葉の数を増やせば良いわけではない。本来の胚盤胞を構成する3つの細胞系列(エピブラスト、原始内胚葉、栄養外胚葉)が共在することが必要である。そこで、有望なサイトカイン・阻害剤の、原始内胚葉以外の細胞系列に対する影響を各細胞系列に対するマーカー遺伝子に対する免疫染色および、細胞数の定量により評価し、添加濃度の最適化、有望な候補因子の更なる絞り込みを行った。本研究により、当初の目標であるブラストイドの誘導系改良のみならず、これまで明らかでなかったヒトの原始内胚葉の分化、増殖を制御する分子機構解明に向けた礎が築けた。 本研究費により、海外から日本へ拠点を移した際の研究の立ち上げ、より安定したポストの確保、国内異動先での実験環境の再立ち上げ、研究チーム作りをスムーズに行うことができた。研究の支援、審査に携わった方々に感謝致します。
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