研究課題
生体内で隣接する2つの細胞間にわずかな性質の差が生じた際、細胞間相互作用を介して一方の細胞に細胞死が誘導される現象が存在する。この現象は「細胞競合」と呼ばれ、組織に残って生存する細胞を「勝者」、細胞死によって排除される細胞を「敗者」と呼ぶ。我々はこれまでに、敗者細胞の細胞死は細胞非自律的なオートファジー誘導によって引き起こされることを明らかにした。そこで本研究では、勝者細胞に近接する敗者細胞でどのようにしてオートファジーが活性化されるのかを明らかにすることで、これまで不明であった細胞競合の上流メカニズムの解明を目指した。令和3年度では、敗者細胞のオートファジー誘導には、勝者-敗者細胞間のタンパク質合成能の差が重要であることを報告した(Nagata et al., Curr Biol, 2022)。具体的には、Hippo経路変異細胞(勝者)ではYkiのターゲットであるmiRNA bantamを介してTOR経路が活性化しており、これによるタンパク質合成の上昇が周囲の正常細胞(敗者)のオートファジー依存的な細胞死を引き起こすことがわかった。さらには、勝者細胞に近接する敗者細胞でどのようにしてオートファジーが誘導されるかを明らかにするための遺伝学的スクリーニングを行い、オートファジー誘導に必要な分子群を同定した。令和4年度では、さらに遺伝学的解析を進めた結果、細胞競合の制御因子として細胞間の直接的な相互作用に関わる分子を同定することに成功した。2年間を通して、本研究の目的である細胞競合における細胞非自律的なオートファジー誘導メカニズムの重要な部分を明らかにできた。今後はさらに解析を進めることで、細胞競合の上流メカニズムの全貌を明らかにする。
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炎症と免疫 3月号
巻: 31 ページ: 14-17
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