研究課題/領域番号 |
21K20657
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
酒井 まどか 京都大学, 医生物学研究所, 研究員 (80910025)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 行動操作 / ウイルス / 感染伝播 / 生存戦略 |
研究実績の概要 |
ボルナ病ウイルス(BoDV-1)は、ラットを用いた感染実験において行動や感情の制御に関わる大脳辺縁系に感染すること、および感染個体の攻撃性や運動量が亢進することが確認された。ウイルスを含む感染体の中には、生存戦略のひとつとして感染した宿主の行動を操作する。そこで、子孫ウイルスの産生量が著しく低いBoDV-1が、宿主の行動操作を生存戦略として採用しているのではないかと仮説をたてた。 この仮説を検証するために、まずBoDV-1感染ラットにおける行動変容の定量化方法の確立が必要だった。これまで、新生ラットに脳内投与によるウイルス接種することで、行動変化が報告されていた。そこで、この投与方法を習得することに成功した。その後、行動解析可能な週齢、およびその方法について調査している。また、成体への感染による行動変容の有無についても確立した定量方法により調査することを予定している。この定量化方法の確立は本研究課題の根幹になるものであり、さらに哺乳類の行動変容を引き起こすウイルス研究の基盤になる重要なものである。 今後、BoDV-1感染によって行動変容を引き起こす原因となる候補遺伝子および分子経路を明らかにするために、ラット脳のトランスクリプトーム解析をおこなう。さらに、感染ラットの行動変化が個体間の感染伝播効率に影響するのかどうかを評価し、BoDV-1による行動操作の意義を解明する。これらの評価により、BoDV-1による宿主操作の分子機構、およびその生存戦略の解明に迫る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
緊急性の高い近年の喫緊の課題である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染制御に関する研究を優先したため、本研究課題の進捗が遅延した。しかしながら、CRISPR-Cas9システムを用いたヒト全ゲノムスクリーニングにより、SARS-CoV-2の複製機構に利用される宿主因子となる候補遺伝子の同定に成功した。さらに、同定した遺伝子のSARS-CoV-2の増殖に関わる詳細な分子機構の解明を目指している。この研究成果は、2021年度ウイルス学会学術集会にて口頭発表を果たした。
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今後の研究の推進方策 |
BoDV-1感染による宿主操作のメカニズムの解明のために、感染ラット脳のトランスクリプトーム解析をおこなう。行動変化を定量化した数値と、感染による発現変動が相関する遺伝子を候補として抽出する。 次に、BoDV-1による宿主操作の意義を解明するために、行動変化を呈する感染ラットによるBoDV-1の個体間伝播の効率を評価する。 以上から、BoDV-1による宿主の行動操作が、効率的な個体間伝播を成功させる生存戦略としているのかという仮説を実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度で、ラットにおける行動変化の定量化の確立、およびBoDV-1感染によって行動変化が起こるウイルス接種量を決定するまでを予定していた。しかしながら、予定していた内容を期間内に達成させることができなかった。そのため、次年度使用額が生じた。そこで、2022年8月までに、行動変容がみられる感染ラット脳のトランスクリプトーム解析をおこなうことで、本ウイルスによる宿主操作の分子メカニズムを解明する。さらに、行動変化を呈する感染ラットによるBoDV-1の個体間伝播の効率を評価し、感染した宿主の行動変化がBoDV-1の伝播効率の向上に影響するのかを10月までに明らかにする予定である。
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