ボルナ病ウイルス(BoDV-1)は持続感染を特徴とし、子孫ウイルス粒子の産出が極めて低いことを特徴とする。この特徴は、個体内での感染維持には効果的だと考えられるが、個体間の伝播には不利である。また、BoDV-1感染実験した齧歯類の行動変化が報告された。そこで、宿主の行動操作がBoDV-1の生存戦略ではないかと考えた。 この仮説を検証するために、まず持続感染モデルの作出し、幼生期から成体期にかけて継続的に外発的行動の変化を継続的に観察した。新生ラットの右脳に1.7x10^5感染価のBoDV-1を接種し持続感染モデルとした。幼生期(14、16、20日齢)には、同腹仔で集まる習性であるハドリング行動に注目した。同腹仔で形成される集団から1個体を引き離し、その集団に戻れるまでの時間を測定した。非感染個体と比較して、感染個体は集団に戻るまでに時間を要し、集団に戻れない個体も観察された。成体期にはオスを用いて、居住者-侵入者テストによる攻撃性を評価した。攻撃を開始するまでの時間は、感染個体のほうが早かった。また、攻撃の異常性として、メスおよび、麻酔による動かないオスに対して攻撃行動の有無による評価したが、どちらも攻撃行動はみられなかった。 次に、個体間伝播を評価する実験条件を検討した。感染後82日間同ケージで非感染個体と同ケージで飼育した。その後、脳を摘出してウイルス感染の検出を試みたが、実験に用いたすべての個体(4体)で検出されず、個体間の感染伝播はみられなかった。 15日齢以降の幼生期において、嗅覚刺激が優勢となりハドリング行動がおこなわれることから、感染による嗅覚機能に影響があるのではないかと考えられる。これまでにBoDV-1感染と嗅覚の関連は報告がなく、新たな発見につながる可能性があり、重要な知見を得ることができた。
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