研究課題/領域番号 |
21K20669
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
酒巻 太郎 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (40907995)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 長期造血幹細胞 / 短期造血幹細胞 / Hoxb5 / 自己複製能 |
研究実績の概要 |
造血幹細胞は、造血系階層の頂点に位置する細胞で、自己複製能と多分化能を有し、血液細胞を供給し続ける。しかし、造血幹細胞がどのようにその機構を維持しているかは、ほとんど明らかとなっていない。その理由として、実験に供する造血幹細胞分画には、技術的限界のため生涯に渡り自己複製能を有する長期造血幹細胞と一過性にしか有さない短期造血幹細胞が混在しており、正確な解析が困難であったことが考えられる。私達の研究グループは、これまで長期造血幹細胞特異的に発現する遺伝子Hoxb5を初めて同定した。さらに、Hoxb5発現を識別可能なレポーターマウスを作製することで、長期造血幹細胞と短期造血幹細胞を高純度に分離することに成功している。 長期・短期造血幹細胞に関しては、自己複製能以外の細胞機能は同じであることから、両造血幹細胞を単離し比較することで自己複製能に強く関与する細胞情報を抽出できる可能性が高い。また、Hoxb5以外のホメオボックス遺伝子の中には、造血に関与するものが複数報告されているが、長期造血幹細胞における機能は、あまり検証されていない。 そこで、本研究では、長期造血幹細胞で特異的に発現している遺伝子群やホメオボックス遺伝子群を対象として造血幹細胞における機能解析を行うことで、自己複製能を制御する遺伝子を同定することを目標としている。本年度は、マイクロアレイやRNAシークエンス法によるオミクス解析の結果から、短期造血幹細胞に比し長期造血幹細胞で高く発現している遺伝子群を抽出してきた。さらに、令和4年度に骨髄移植実験を行い造血幹細胞における候補遺伝子の機能を確認するため、前段階スクリーニングとしてin vitroで候補遺伝子の機能を解析してきた。その結果、自己複製能に関与する可能性の高い候補遺伝子を複数同定してきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、マイクロアレイやRNAシークエンス法によるオミクス解析の結果から、短期造血幹細胞に比し長期造血幹細胞で高く発現している遺伝子群を抽出してきた。一般的に、造血幹細胞の自己複製能に関した機能解析を行うためには、骨髄移植実験を行う必要がある。しかしながら、骨髄移植実験は、少なくとも8ヶ月の期間を要し、スクリーニングには不向きである。そこで、申請者は、in vitroで造血幹細胞が有する自己複製能の変化を検出可能な手法を開発してきた。実際に、このスクリーニング手法を用いることで、令和3年に造血幹細胞においてHoxb5が自己複製能を制御していることを示してきた。本研究では、上記in vitroスクリーニング手法を用いて、造血幹細胞に候補遺伝子を遺伝子導入することで、その細胞機能の変化を解析した。その結果、一部の遺伝子を造血幹細胞に遺伝子導入した場合のみ、未分化細胞分画であるLKS分画の割合が増加することやコロニーの形成能が緩やかであることを明らかとし、造血幹細胞の細胞機能に変化をもたらしている可能性を示してきた。令和4年度に実施予定としている二次スクリーニングの準備が整いつつあることから、本プロジェクトがおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度には、令和3年度に引き続き、短期造血幹細胞に比し長期造血幹細胞で高く発現している遺伝子群とホメオボックス遺伝子群に対して、in vitroスクリーニング手法を用いた機能解析を行い、造血幹細胞の細胞機能を変化させる遺伝子の選定を行っていく。 同時に、令和3年度に選定した遺伝子と令和4年度に新たに選定された遺伝子を対象に、二次スクリーニングとして造血幹細胞に遺伝子導入し、骨髄移植実験による機能解析を開始予定である。骨髄移植後は、4週間毎にレシピエントマウスの末梢血解析を行い、造血能の変化を評価する。半減期の短い好中球のキメリズムを指標に、自己複製能の変化を評価していく。最終的に、二次移植実験を検討し、自己複製能を制御する遺伝子の同定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で、国外からの蛍光抗体やトランスフェクション試薬の輸入が大幅に遅れ、令和4年度にずれ込んだため、次年度使用額が生じた。また、血液内科学会が全てオンライン開催となり、国内旅費の経費が減ったこともあり、次年度使用額が生じている。
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