魚類は,水流を感受する感覚器官である側線系を具えている.体が左右非対称なことで知られるカレイ目魚類(異体類)では,側線系の外部形態も左右非対称である.さらに種によって側線系の非対称の程度が異なることから,その程度は生態的特徴や系統的背景と関連していると推察される.本課題では,異体類の生活様式の進化(すなわち体の片面を海底へ接地させ,もう片面は海中にさらすというスタイルへのシフト)が,側線系の役割に左右体側間での分化を齎したと予想したうえで,左右非対称な側線系の形態学的意義と系統的背景を議論した. 自ら採集したサンプル,既存の博物館標本,および文献調査に基づき,頭部側線系について現生カレイ目の主要グループを概ね網羅した知見を得た.特に受容器である感丘の個数における左右非対称性を重視した.その結果,カレイ目内で祖先的といえるグループでは側線系の左右非対称性は比較的低く,むしろ一般的なスズキ目魚類における状態(側線系は左右対称)に近いといえる状態であった.一方で,ウシノシタ科やササウシノシタ科では,海底に接する側(無眼側)における表在感丘の個数が著しく増加していた.側線神経の観察から,どの観察種においても感丘要素の反対側への移動はほぼ認められず,無眼側に多数の感丘をもつ種では無眼側の管器感丘が表在感丘として体表に生じるか,あるいは両体側にある表在感丘要素のうち無眼側のものが数を増していると判明した.クロウシノシタでは,無眼側の側線管が退化的であるのに対して,種内変異として有眼側に追加的な側線管をもつ個体がみられた.結論として,カレイ目の一部の科では無眼側の側線系が海底を探る器官へと変化しており,これは有眼側では保存されている管器感丘が無眼側では表在感丘へ変質していること,および,無眼側の表在感丘が増加(おそらく成長初期に分裂)することによって達成されていると考えられる.
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