本研究は類似の食性をもつ種間での味覚受容体の機能的な共通性とその進化機構の解明を目指すものである。特に独立に進化した3つの葉食性系統を持つキツネザル下目の甘味受容体に着目し、培養細胞を用いた受容体機能解析と変異体解析によって、3つの葉食性系統の甘味受容体機能が類似しているのかを検証し、類似の食性間での甘味受容体の機能的な共通性とその進化機構の解明を目指す。 本年度は、昨年度に作成した甘味受容体発現プラスミドを用いて、キツネザル類の甘味受容体の糖・甘味料(以下甘味物質)応答性を培養細胞系によって評価した。その結果、食性と関連すると思われる甘味受容体の機能的な差異を発見した。果実食性の系統では、ヒトなどと同様に甘味物質に対して反応性を示した。一方、葉食性系統では、甘味物質に対する応答が果実食の種とは異なり、一部の種で甘味物質応答性が低下していた。葉食とされる系統の中でも、果実を一定以上(30~50%)採食する属では甘味受容体は高い甘味物質応答性を持っていたが、高度に葉食化した属では甘味受容体の甘味物質感受性が低下していた。このことから、葉食性の曲鼻猿類でも葉食性狭鼻猿類であるコロブス類と類似の甘味受容体の機能低下が並行的に進化したことが明らかとなった。さらに、変異体解析を実施し、機能差を生み出すアミノ酸残基の一部の同定に成功した。今後は、他の機能差に寄与する残基を同定し、機能低下が起こった時期の推定を実施する必要がある。
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