異なる受精環境での受精メカニズムの適応を明らかにすることは、生物学上の重要な課題である。本研究では、近縁種に体外受精種・体内受精種(体内配偶子会合種)を有する海産カジカ科魚類をモデルとして(1)海産カジカ科魚類を用いて体内受精の進化、精子競争レベルの激化によって精子が分子レベルでどのように進化したかを、系統関係を考慮して解明すること(2)海産カジカ科魚類で得られた結果が、他の魚類分類群でも普遍的であるかを確かめること(3)体内受精の進化により生じた精子形態の変化の機能的意義を明らかにすることを目的とした。 初年度に予定した北米での調査は、COVID-19の流行により敢行できなかったが、2022年度では予定通り北米のカジカを採集し、目的(1)を達成する上で重要な新規の精子の形態・運動データを得ることができた。こちらは順次論文投稿予定である。円安の影響で、北米での調査旅費が当初の想定を超過したため、RNA seqenceは行うことができなかったが、今後は北米のカジカでRNA seqを行い遺伝子基盤の進化を探る。また、目的(2)も並行して行った。近縁種同士の比較により、海産カジカ科魚類以外の魚類分類群でも、体内受精の進化に伴い精子形態・運動性が平行進化したことを示し、国際誌で報告した。目的(3)に関しては、精子の頭部形態が異なるカジカを用い、粘度の異なる溶液での精子の運動性をハイスピードカメラで記録することにより、頭部形態の機能的意義を検討した。「体内受精で伸長した頭部は粘性環境への適応」という予想とは異なり、頭部形態の違いは粘性への適応ではなく、直進性に関与する可能性があることが明らかとなった。こちらは鞭毛の振幅や振動など、より詳細な観察を行い、国際誌への投稿を目指す。 本研究により精子が受精に至るまでの過程でどのような適応進化が起こるのか、その一端を明らかにすることができた。
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