研究実績の概要 |
本研究課題では、げっ歯類大脳皮質における一次視覚野(V1)から後頭頂連合野(PPC)中心とした大脳皮質における感覚・運動情報表現をマッピングすることで、感覚運動変換の神経基盤を明らかにすることを目標とした。感覚・運動情報表現の定量化に適した新規行動課題として視覚性二段階応答課題を考案し、頭部固定下のラットから課題遂行中に多点電極を用いた神経活動記録を行った。得られたスパイク活動を単一ニューロンごとに分離した結果、大脳皮質運動野や視床・海馬を含めた11領域から3万ニューロン分のデータが得られた。 視覚刺激直後の発火頻度を刺激提示タイミングと運動応答開始タイミングにそれぞれ揃えた場合で比較した結果、V1からPPCにかけて徐々に感覚関連情報を持ったニューロンの割合が減少していき、PPCは運動野と類似した感覚・運動情報の分布となっていることが明らかとなった。これらの結果は先行研究と一致しており、本研究で用いた行動課題や神経活動記録法の正確性が示された。一方、二次視覚野の前方部(V2RL,V2AM)において、運動関連情報を持ったニューロンの割合が高くなっていることが明らかとなった。 各ニューロンのスパイク活動をよく観察すると、刺激後に発火頻度の増加と減少が交互に生じている振動性ニューロンが存在することに気が付いた。そこで、発火頻度の増加・減少区間をそれぞれ検出し、区間ごとの情報表現を定量化する新たな解析手法を考案した。この手法を課題関連ニューロンに適用したところ、振動性ニューロンは運動開始前の区間では感覚関連情報を、運動開始後は運動関連情報を表現していることが明らかとなった。このような複合的な情報表現をしているニューロンはV2RLやV2AM、PPCに多く存在していた。これらの結果から高次視覚野の前方部における振動性の神経活動が感覚・運動変換に寄与している可能性が示唆された。
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