研究課題/領域番号 |
21K20693
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
芝原 友也 九州大学, 医学研究院, 共同研究員 (20908496)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 脳梗塞 / 組織修復 / 神経系ネットワーク再構築 / 細胞外マトリックス / ペリサイト / マクロファージ / アストロサイト / オリゴデンドロサイト前駆細胞 |
研究実績の概要 |
脳梗塞後には、脳組織の神経系細胞や血管系細胞、傷害後に局所動員される血球系細胞が相互に作用することで、内因性機能回復機構が働く。我々は脳微小血管の壁細胞ペリサイトに着目し、脳梗塞後の組織修復と神経ネットワーク再構築による内因性機能回復について検討してきた。これまでに、脳梗塞後にペリサイトが、(1)梗塞内部へ血球系マクロファージの動員を誘導して壊死組織(ミエリンデブリス)の処理(=梗塞内部の組織修復)に関わること(Shibahara, Stroke 2020)、(2)梗塞周囲ペナンブラ領域のアストロサイトに作用してオリゴデンドロサイト前駆細胞(oligodendrocyte precursor cells, OPC)の再髄鞘化(=神経系ネットワーク再構築)を促進させ、内因性機能回復を誘導すること(Shibahara, eNeuro 2020)を報告してきた。これらの細胞間の作用機序には不明な点が多いが、近年脳梗塞や認知症、脱髄疾患の病態における種々の細胞の相互作用において、細胞周囲の微小環境を制御する細胞外マトリックス(Extracellular matrix: ECM)が介在する可能性が注目されている。本研究課題では、脳梗塞後にどのようなECMがどのように内因性機能回復機構をもたらすのかを明らかにし、さらにはその機序の解明によりECMをターゲットとした新規治療法開発の糸口とすることを目的としている。現在、マウスの脳梗塞モデルを用いて、梗塞内部の組織修復に重要なペリサイト/マクロファージの細胞間相互作用、および、神経ネットワーク再構築に重要なペリサイト/アストロサイト/OPCの細胞間相互作用に関わるECMを探索し、その分子細胞機構について検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①基底膜ECMの脳梗塞後再構築:まず基底膜を構成するECM蛋白質が、脳梗塞後にどのように局在および経時的な発現パターンが変化し、再構築されるかを検討した。健常脳組織において、基底膜ECMは血管内皮細胞周囲に局在することを確認した。一方、脳梗塞後に再構築されるECMには、健常脳組織と同様に血管周囲に沿って発現するもの、主に梗塞内部に発現するもの、梗塞部分と梗塞周囲ペナンブラ領域の境界部に発現するものがあることを見出した。 ②梗塞内部の組織修復におけるECMの役割:脳梗塞後の梗塞内部で、ペリサイトが主に発現するECMを同定した。さらに、そのECM上で培養したマクロファージはミエリンデブリス処理能が促進することを見出した。ペリサイトとマクロファージが、ECMを介した細胞間相互作用によってミエリンデブリス処理、すなわち梗塞内部の組織修復を促進している可能性がある。現在、ペリサイト機能が減弱したPDGFRβ heterozygous knockoutマウスを用いて、組織修復の変化を検討している。 ③梗塞周囲の神経系ネットワーク再構築におけるECMの役割:脳梗塞後の梗塞部分と梗塞周囲ペナンブラ領域の境界部で、アストロサイトが主に発現するECMを同定した。さらに、そのECM上で培養したOPCは髄鞘化が促進することを見出した。アストロサイトとOPCが、ECMを介して神経系ネットワーク再構築を促進している可能性がある。PDGFRβ heterozygous knockoutマウスでは梗塞周囲のアストロサイトが減弱することを我々は以前報告しており、PDGFRβ heterozygous knockoutマウスにおける梗塞周囲のOPCの分化/再髄鞘化および、脳梗塞後の神経機能を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
近年、rt-PA静注治療および脳血管内カテーテル治療による再灌流療法の確立と普及により脳梗塞超急性期治療は劇的な進歩を遂げたことで、救命率の向上や後遺症の軽減がもたらされた。しかし、超急性期治療は時間的制約により多くの症例が適応から外れてしまい、後遺症として運動機能障害が残る場合が多い。後遺した運動機能障害に対する治療は現時点ではリハビリテーション治療のみであり、急性期以降の内因性機能回復促進治療の開発は喫緊の課題である。内因性機能回復機構における細胞間相互作用において、ECMを介した病態制御に着目した研究を行い、新規の脳組織修復・機能回復治療を目指す点は我々独自の視点である。これまで脳梗塞亜急性期の組織修復を促進する治療薬として有効なものはなく、内因性機能回復を促進する新たな作用機序による治療薬の開発につながれば、治療介入への時間的猶予の観点からも、新たな治療概念の確立につながると考えている。 現在、ペリサイト/マクロファージによる梗塞内部の組織修復を制御する可能性のあるECM、アストロサイト/OPCによる神経ネットワーク再構築を制御する可能性のあるECMを同定している。次にペリサイト機能が減弱したPDGFRβ heterozygous knockoutマウスにおける、各ECM蛋白質の発現や組織修復、神経機能回復の変化を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物を購入予定であったが、COVID-19感染動向によって動物実験施設業務の縮小、研究活動に対する制限があり、予定通りの実験計画を進めることができなかった。今後は感染状況を見ながら研究活動を加速して行う。
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