本研究では、歌鳥(キンカチョウ)の社会構造構築の基軸となる「鳴き声の個体認知」の神経機構について、音声刺激設計・アルゴリズム開発によるアプローチを試みた。具体的には研究課題の遂行にあたり必須となる2つの音声刺激セット、「個体差あり鳴き声」「個体差なし鳴き声」の作成について重点的に行った。 まず「個体差あり鳴き声」の作成については、歌鳥の鳴き声を収集する必要があったため、近隣の業者から15羽の歌鳥を購入して鳴き声のデータを収集した。また、記録音声の品質向上のため、録音環境デバイスの改善に取り組んだ。これらの試みにより、「個体差あり鳴き声」刺激セットの作成に必要なデバイスが整った。 さらに、「個体差なし鳴き声」の刺激セットの作成については、「個体差あり鳴き声」を構成する音声データをデジタル処理することで、複数の個体の鳴き声が混ざった音を作成した。この刺激セット作成の際、コンピュータの計算処理能力に問題が生じたため、計算資源として128GBRAM メモリを導入した。これによりコンピュータの計算処理能力が格段に上昇し、高速に「個体差なし鳴き声」を作成できるようになった。以上のことから、本研究課題の肝となる音声刺激設計についてはおおむね完了したといえる。なお、購入したメモリは次年度に実装予定だった解析アルゴリズムへの適用も想定している。 研究代表者の海外渡航により2022年3月をもって本研究課題は中断した。再開後は、作成した刺激セットを歌鳥に聞かせ、そのときの神経応答を脳内から取得できる系を構築し、最終的な「個体認知に関わる鳴き声の要因」の特定を目指す。
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