大脳皮質基底核変性症(CBD)では疾患特異的な立体構造をもったタウ凝集体(CBD型タウ)が形成されている。令和3年度は、神経細胞系培養細胞を用いて増幅したCBD型タウを人工シードとしてマウスに注入し、伝播が起こるかを確認した。その際、人工シード注入6か月後のマウスでは伝播を確認できたが、CBDに特異的なアストロサイトのタウ凝集体(アストロサイト斑)は認めなかった。令和4年度では人工シード注入後8か月の時点で評価を行い、アストロサイト斑を確認することができた。また、このCBDマウスモデルから抽出したタウ凝集体はプロテアーゼで切断した際のパターン解析で、CBD型タウの構造を持つことを確認した。また、CBD型タウの形成に必要な因子を同定するため、CBD患者脳タウシードを注入したCBDマウスモデル脳を用いて、空間トランスクリプトーム解析を行った。この解析ではアストロサイト斑が出現したマウス大脳皮質に関心領域を設定し、予備実験ではライブラリ構築に必要な十分量のmRNAが得られることを確認した。本解析では、CBD患者脳タウシードを注入した側(CBD感染側)、AD患者脳タウシードを注入した側(AD感染側)、対照群としてAD患者脳シードを注入した側の対側(AD非感染側)を置き、3群で解析を行った。発現変動遺伝子(DEG)解析では、CBD感染側とAD感染側に特異的なDEGを同定した。これらの中には、タウ凝集との関連が知られている遺伝子が含まれており、解析の信頼性は高いと考えた。得られた変動遺伝子がタウ凝集に与える影響を調べるため、培養細胞によるタウ凝集アッセイ系にプラスミドを用いて一過性に発現させた。その結果、いくつかの遺伝子を過剰発現させた際にタウ凝集が抑制されることを見出した。
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