本研究課題の目的は、アルツハイマー病リスク遺伝子TREM2の発現がどのように制御されるのか、また、その制御因子はミクログリアの機能やアルツハイマー病の病態とどのような関連を示すのかを明らかにすることである。TREM2はアルツハイマー病のリスク遺伝子であることが知られており、リスク多型を有するTREM2では、ミクログリアの機能が減弱する。TREM2の発現制御に関与する因子はミクログリアの機能レベルに関与する可能性がある。2023年度は、TREM2のRNAプロセシングのうち、主に翻訳制御に関する知見を報告した。まず初めに、TREM2の非翻訳領域には、通常の開始コドンと異なる開始コドン(uAUG)が存在することを見出した。そこでTREM2 uAUGの役割を検討したところ、uAUGはTREM2の翻訳を抑制する役割があることがわかった。また、uAUGから終止コドンまではインフレームである。実際に、uAUGから翻訳されると通常のTREM2タンパク質よりもN末端が伸長したTREM2タンパク質が産生される事を見出した。各生物種のTREM2の配列を参照すると、TREM2 uAUGはマウスには保存されておらず、ヒトを含む一部の霊長類に保存されていることがわかった。本研究課題から、種特異的なTREM2 uAUGは、TREM2の翻訳を抑制する因子として働くことでミクログリアの機能を調節している可能性が示唆された。
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