研究課題/領域番号 |
21K20706
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中島 孝平 北海道大学, 薬学研究院, 助教 (40907771)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 光免疫療法 |
研究実績の概要 |
光を用いた新たながん治療法である光免疫療法(Photoimmunotherapy; PIT)は、がん細胞の免疫原性細胞死を誘発するため、抗腫瘍免疫応答を効率的に活性化する。申請者はこれまでに、高い光照射量でPITを行うと全身性の副作用が生じることを見出した。これには免疫・炎症応答の関与が想定されるが、PITが起点となった生体内の反応がどう推移して副作用に至るかは明らかとなっていない。 そこで本研究では、同一個体を経時的に解析できる生体イメージングを用いてPIT後の免疫・炎症反応の推移を明らかにすることを目的とする。同時に、血液検査値や臓器障害などを総合的に分析することで副作用の病態に迫る。 本年度はまず、PITを行った担癌マウスの血中の炎症性サイトカイン濃度および電解質濃度に関する検討を行った。マウス由来MC38細胞を移植したC57BL/6JマウスおよびBALC/c nu-nuマウスに移植して担癌マウスを作製した。それぞれの腫瘍にPITを行い、血中のTNF-αおよびIL-6の濃度をELISAで測定したところ、T細胞が存在せず免疫不全であるヌードマウスと比較して免疫系が保たれているC57BL/6Jマウスで炎症性サイトカインが大きく上昇した。また、電解質濃度はC57BL/6JマウスにおいてはNaおよびCaが低下、Kが上昇したのに対し、ヌードマウスにおいては変化が認められなかった。したがって、炎症性サイトカイン産生や電解質の変動には、PITによって誘発される宿主の免疫応答が関与していることが示唆された。また、これらの変動量は光の照射量依存的に増加することも明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、がん細胞を移植したヌードマウスにおけるPIT後の生理学的応答をPETやMRIを用いて経時的に解析した。その結果、PITを行った腫瘍内では光照射の3 hおよび24 h後に、[18F]FDG集積量が有意に低下し、がん細胞の糖代謝の低下を非侵襲的に可視化できることが示された。一方、光照射した腫瘍の周囲では、[18F]FDGが高集積かつT2-WIにて高シグナルの炎症性浮腫の領域が生じることを明らかにした。本結果については、国内学会2件、国際学会1件の発表をしている。 さらに、上述したように本年度は、マウス由来MC38大腸がん細胞をC57BL/6Jマウスに移植して作製した担癌マウスを用いて、PIT後の血中の炎症性サイトカインや電解質濃度が変化することを見出した。 以上、PIT後の炎症・免疫応答に関する知見が着実に得られており、現在までの進捗状況は「(2)おおむね順調に進行している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究にて、C57BL/6JマウスとヌードマウスでPITによって誘発される炎症応答が異なることが示された。そこで今後は、ヒトでも生じうる炎症・免疫応答を検討するため、免疫系が保たれているC57BL/6Jマウスにがん細胞を移植した担癌マウスにPITを行い、[18F]FDGなどを用いて経時的にPETイメージングを試みる。 また、光の照射量によって血中サイトカイン濃度などの変化が異なることを見出しているため、炎症を抑えつつ、がんの治療効果を最大にするような治療レジメンを見出すことを目指す。さらに、ステロイドやサイトカインの中和抗体による炎症の制御についても検討を行う予定である。この際、光照射を行った腫瘍だけでなく遠隔腫瘍への治療効果も検討し、免疫の活性化を総合的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は、2月に米国にて開催される予定であった12th AACR-JCA Joint Conferenceにて発表を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響によって当該学会の開催が令和4年12月に延期となった。そこで、令和4年度に発表を行うために翌年度分として請求した。
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